2023年以降、SNSのアルゴリズムが激変し、バズを狙う戦略は通用しなくなった。今求められているのは、SNSを短期的な売り上げ獲得の手段ではなく、ブランド資産を積み上げる場として捉え直し、広告とオーガニックの両輪で情報を確実に届けること。さらにWho・Whatで決めた戦略を、SNS・マス広告・店舗といったすべての接点に反映させることだ。これを実現するには、部門を超えた連携が不可欠。前編に引き続き、『コミュニティマーケティングは「巨人の肩」に乗れ』(日経BP)の著者、ホットリンクの増岡宏紀氏が、インサイトフォース代表取締役の山口義宏氏との対談を通じてその実践法を探る。[日経クロストレンド 2026年3月24日付の記事を転載]
SNSはブランド資産を積み上げる場
増岡宏紀氏(以下、増岡) 前編ではブランド想起の設計について、「思われたい」と「思われている」のギャップをどう埋めるか、消費者の言葉をどう拾うかという話をしました。後編では、それをSNS時代にどう実践していくか話したいと思います(関連記事「ブランドと顧客に距離が生まれる3つの理由 想起のきっかけのつくり方」)。
前提として、2023年以降SNSのアルゴリズムが激変し、企業アカウントが投稿をバズらせることが非常に難しくなりました。SNSのレコメンドメディア化が進んだ結果、企業はブランドイメージの制約があるため、純粋に面白いコンテンツを作りにくく、フォロワーが何万人いようと情報を届けるのが困難になっています。
しかも、仮に1度バズったとしてもそれがブランド資産として積み上がらず、ストック型にならない。オーガニックだけでリーチをかせぐという発想自体が限界に来ており、確実にユーザーに届けるには広告を使う必要がある時代になりました。
山口義宏氏(以下、山口) 完全に変わったんですね。企業側はこの変化に対応できていますか?
増岡 難しいのが現状です。特に上層部の方が「SNSはオーガニックでやるもの」「お金をかけずにバズらせるもの」という認識のまま止まっていることが多いです。
その結果、担当者に「バズる投稿を考えろ」と丸投げし、疲弊させてしまう。一生懸命に投稿しても思うように成果が出ず、「なぜバズらないんだ」と言われてしまうケースもあります。
山口 それは厳しいですね。担当者だけに責任を負わせても、環境が変わっている以上、成果は出ませんから。
増岡 だからこそ「SNSをどう位置付けるのか」という議論をもう一度やり直す必要があると思っています。
山口 そうですね。僕はブランドに対する認知と信頼の資産を積み上げていく場としてSNSを位置付けることが重要だと考えています。
なぜかというと、利害のない第三者から言われた方が人は信じやすいことと、複数のメディアで接触した方が一般的にはCVR(コンバージョン率)は上がるからです。企業が「この商品は良い」と言うよりも、第三者が「これいいよ」って言っている方が信頼できますよね。
そして、ブランド資産を積み上げるという視点で見ると、SNSでブランド資産を摩耗させて減らすような、マネタイズを急ぎ過ぎるのは危ういと考えています。
増岡 確かに。例えばどんな状況を想定されていますか。
山口 例えば、フォロワーに毎日セールの告知をするとします。「今日は20%オフ」「明日は30%オフ」という形で告知すれば、短期的には売れるかもしれません。
でも、そのブランドは「安売りするブランド」として認識されてしまう。「競合より安い、常時セールのブランド」というブランド設計とセール価格でも成り立つ事業構造の設計でなければ、結果として定価で買う人が減ってしまい、セールでしか売れなくなってしまいます。
増岡 なるほど、ブランド資産を食いつぶしているということですね。
山口 まさにそうです。逆に既に認知度があって信頼されているブランドは、CVRも高く単価が高くても成り立ちやすい。価格の安さで持続的に利益を出せる事業構造を持っていないブランドなら、価値や信頼が高まるような施策に投資する方が長期ではリターンが大きいはずです。
伝えるべき内容を決め、広告で確実に届ける
増岡 山口さんから見て、どのようなSNS戦略が必要だと思いますか。
山口 誰に何を伝えるか、これをまず決めることです。そして「何を伝えるか」を、消費者側の言葉で、消費者が言及したくなる形にコンテンツ化、さらに言えば商品・サービスの企画が「言及したくなるもの」にしていくのが王道だと思います。
その次に、それをどう届けるかが大切になります。
増岡 伝えるべき内容が決まったとして、それをどう届けるか。私は広告を活用して、確実に届けることを提案しています。
SNS広告は非常に精緻なターゲティングができます。年齢や性別だけでなく、興味関心・フォローしているアカウント・過去の行動履歴といったデータを基に、狙ったコミュニティに確実にリーチできます。
ただ、ここで問題になるのが「SNSの運用は無料でできるものであり、広告をかけるのは非効率である」というバイアスです。先ほど話したように「オーガニックで頑張れ」と言われて、担当者が疲弊してしまうケースが多いんです。
山口 そのような場合、増岡さんはどのようにアプローチされるんですか?
増岡 まず、SNSのアルゴリズムが変わったという事実を共有します。「2023年以降、企画力だけではリーチがかせげなくなった」という現実を理解してもらうことです。実際に、お客さまのデータを分析すると一目瞭然だったりします。
その上で、SNSの認識を変えないと事業インパクトは生み出せないということを説明することが多いです。SNSは短期的な売り上げを追う場ではなく、ブランド資産を積み上げ、長期的にブランド価値を高めていく場に変わっていると。
山口 となると、SNSの広告も短期的な売上獲得の手段ではなくなりますよね。
増岡 そうなんです。広告で確実に届けつつ、オーガニック投稿で良質なコンテンツを発信し続ける。この両輪で回していくことが大切です。
山口 広告とオーガニック投稿、それぞれどんな役割を担うんですか。
増岡 広告には、届けたいターゲットコミュニティにきちんとリーチするという役割があります。どんなに良い投稿をしても、届けたい顧客に届かなければ意味はありません。まずは届いてこそです。これを、日々切り口を変えて届け続けます。それに対してオーガニック投稿には、自分ごと化させる役割があります。どのようなUGC(ユーザー生成コンテンツ)を出してもらいたいのかから逆算して企画します。
UGCにつながるよう、広告を使いターゲットに対してさまざな切り口で訴求しながら、ユーザーが「これいいよ」と言及したくなる状態をつくります。このサイクルが回り始めると、UGCが自然発生的に増えていきます。
山口 それぞれの強みを生かす形ですね。ただ、それは前編で話したブランド想起の設計がしっかりできていることが前提ですよね。伝える内容が正しくなければ、どんなに届けても態度変容は起きない。
増岡 おっしゃる通りです。オーガニックのコンテンツがUGCを投稿するきっかけになります。ユーザーが「これいいよ」と言及してくれて、言及がブランドの信頼につながっていくんです。
Who・Whatをすべての接点に反映させる
山口 ここまでSNSの話をしてきましたが、私はもう一つ大きな問題があると考えています。それは、Who(誰に)・What(何を)の単位ごとに伝えるべきメッセージやキービジュアルに一貫性を持たせているかどうかです。
増岡 すべての接点、というと?
山口 店頭、SNS、マス広告、PR、すべてです。いくら「誰に何を伝えるか」を議論しても、それがあらゆる接点に反映されなければ、ただの社内の妄想で終わってしまう。接点で実装されなければ、消費者には何も届きません。
しかし、実際にはそれぞれの接点でバラバラのメッセージが発信されていることが多いですよね。店頭とSNSとマス広告が連動せず、メッセージやキービジュアルが統一されていない状態です。もちろんWho・Whatごとに複数バリエーションがあったり、接触タイミングが異なるメディアでは具体的なメインコピーが変わったりするのは構わないのですが、そこには一貫したテーマとメッセージがないと伝わりにくい部分はあります。
増岡 確かに、部門ごとに別々で動いてしまいがちですよね。
山口 そうなんです。キービジュアルが異なると、せっかく接点を持っても同じブランドだと気付かれない。事前の接触で関心を持った内容とメッセージがずれていたら、消費者が困惑する原因にもなります。もちろん、消費者はこちらの設計どおりの順番やタイミングでメディアに触れるわけではありません。しかし、誰に何を伝えるかをすべての接点に連携させながら反映させる意図を持つのは重要だと思います。
増岡 マーケティングと組織の話は切っても切れないですよね。
山口 はい。メッセージをすべての接点に反映させるには、部門横断のチームが必要です。事業部、広告宣伝部、営業部、外部のパートナー企業……これらが一堂に会して戦略を共有し、それぞれの接点でどう表現するかを議論していく。そして、ここで大切なのは、選んだ理由だけでなく「選ばなかった選択肢と理由」も共有することです。
例えば、「30代の共働き夫婦」をWhoに選んだ。でも、検討段階では「20代の単身者」「50代の富裕層」も候補に挙がっていた。なぜそれを選ばなかったのか。この背景を共有しないと、各部門が勝手に解釈して、バラバラな施策を打ってしまいます。
増岡 伝言ゲームになってしまうということですね。
山口 そうです。意思決定のプロセスを共有することで、各部門が同じ解像度で戦略を理解できるようになります。
増岡 ただ、現実的に考えると全部門を集めて議論するのはかなりハードルが高いですよね。支援の現場で、私たちも苦労することがあります。
山口 確かにハードルは高いです。しかし、急がば回れでそこに踏み込まないと、部門を横断しながらも全員が納得する合意形成は得られず、失敗しやすくなります。
戦略を決めた人が決定後、各部門に個別に説明して回ると、本質的な納得感は得られずに面従腹背が起こりやすいのも組織の常です。また、プロセスの共有がないと深い理解が得られにくく、最終的には各チャネルで連携が弱いメッセージや表現になりがちです。
だからこそ、最初に可能な限り部門横断で全員を集めて検討プロセスを共有することが重要です。創業家が決めて、下に落とせばまとまって動ける組織であれば、部門横断の共有なしでもうまくいく場合は多々あります。しかし、合議で進める多くの企業では、部門横断で検討と合意を得るのが大事だと思います。
増岡 定期的な見直しも重要ですよね。最初に決めたWhoやWhatが、ずっと正しいとも限りません。
山口 市場も変わるし、競合も変わります。月次や四半期ごとに見直す仕組みをつくることが大切です。「これは良かった」「これは思ったより効果がなかった」と振り返りながら、チューニングしていく必要があります。そのとき、戦略設計の誤りなのか、施策の表現や運用のミスなのかを混同しない冷静さが重要です。狙いは合っていたのに、施策の品質が悪くて成果が出ないことで、筋の良い方向の模索を捨ててしまうのは大きな機会ロスです。
ブランド想起への投資を成果につなげるために
増岡 今回の対談を通じて、ブランド想起の設計から実践までかなり広い範囲の話をしました。最後に、これらを実践していくため、企業は何から始めるべきだと思いますか。
山口 まず、「こう思われたい」と「実際にこう思われている」とのギャップを把握することです。そのためには、顧客の声を直接聞く必要があります。定性調査でもいいですし、SNSのクチコミを見るのでもいいでしょう。
増岡 前編で話した、消費者の言葉を拾うというところですね。
山口 そうです。そこで見えてきたギャップを埋めるため、誰に何を伝えるかを決める。その際、消費者の言葉で決めることが重要です。そして、それを店頭、SNS、マス広告、すべての接点に反映させていく。
増岡 そこで組織横断のチームが必要になるわけですね。統一したブランド想起の軸を持ち、さまざまな場所で接点をつくることでブランド資産が積み上がる。この点はSNS活用でも同様です。統一した軸をさまざまな切り口で、なおかつ高い頻度で伝え続けていくことが必要です。瞬間的かつ偶発的なバズを当てにしないということです。
山口 そうですね。ブランドの認知と信頼が積み上がれば、購買される確率も上がるし単価も上げやすくなります。その論理を経営層と共有して、投資の妥当性を擦り合わせることが大切です。
増岡 ブランド想起に対する投資が売り上げにつながるかどうかは、全体設計と組織のあり方にかかっています。今日の話が、読者の皆さんのヒントになればうれしいです。山口さん、ありがとうございました。
(写真/村田和聡)
増岡宏紀(著)、日経BP、2420円(税込み)






