内容紹介
半導体戦略の要諦は、一言でいえば微細化技術への積極投資である。ただし、定石だけでは失った30年を取り戻すのは難しい。競争の舞台の第2幕を予見して先行投資をすることも必要である。剣道でいう「先々の先を撃つ」である。現下の複雑な情勢を読み解くためには、そのうなりを生み出す3種類の変化(①産業の主役交代、②市場の波、③技術のパラダイムシフト)を理解する必要がある。これらの変化によって、半導体チップの設計がソフトウエアのコードを書くくらい簡単になる。そうなれば世界に革命が起こる。アップルやテスラのようなTSMCの少数の大口顧客だけでなく、多くの人がチップを作れるようになればイノベーションが起こるということである。半導体技術を活用できる人を1桁、2桁増やすという意味だ。これこそが本書の主題として謳っている「半導体の民主化」であり、そのシチュエーションに日本逆転のチャンスがある。ソフトウエア開発者と比べると、ハードウエア設計者の人口は桁違いに少ない現状が、一挙に変わり新たな形のイノベーションが咲き乱れる時代がやってくる。
本書は、この激変する半導体戦略をリードするキーパーソン黒田忠広・東大教授が、新しい半導体の世界、激変する環境、それへの対応策を明らかにする初めての一般向けの書。黒田氏は『2030 半導体の地政学』(太田泰彦著)でも半導体界の最重要人物として紙幅を割いて紹介されている。本書は、産官学の枠を超えて半導体に関わるあらゆる人にとって必読の書となる。
目次
I 一陽来復 Prologue1 晩さん会――舞台は回る
2 東大が動く――アジャイル!
3 More People――世界の頭脳を惹きつけろ
4 半導体の森――共生と共進化
Ⅱ 捲土重来 Game Change
1 半導体戦略――先々の先を撃つ
2 汎用チップから専用チップへ――半導体産業のゲームチェンジ
3 産業のコメから社会のニューロンへ――ポストコロナ時代の半導体
4 ダムから半導体へ――デジタル社会のインフラ
Ⅲ 構造改革 More Moore
1 脳とコンピュータと集積回路の短い歴史――そして一つの未来
2 スケーリングシナリオ――指数関数の驚異
3 チップの構造改革――リークを減らせ
4 AIチップ――脳に学ぶ
Ⅳ 百花繚乱 More than Moore
1 2Dから3Dへ――集積回路の次の半世紀
2 半導体キューブ――横から縦へ
3 脳をインターネットに接続する――Internet of Brains
4 同期と非同期――チップのリズム
Ⅴ 民主主義 More People
1 タイムパフォーマンス――Time is money
2 アジャイル開発――AI時代のチップ開発法
3 シリコン・コンパイラー――ソフトウェアを書くようにチップをつくる
4 半導体の民主化――アジャイルX
Ⅵ 超進化論 Epilogue
1 巨大集積――There’s plenty of room at the TOP
2 豊かな森――生態系の力
3 超進化論――多様性を育む仕組み
4 芽吹き――次の世代へ