その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は黒田忠広さんの『 半導体超進化論 世界を制する技術の未来 』。その「あとがき」です。

【あとがき】

 半導体民主主義と半導体戦争(チップウォー)はコインの表裏である。私はこの本で半導体民主主義を描きたかった。
 19世紀にビスマルクが「鉄は国家なり」と演説した。そして鉄は近代都市をつくり、兵器を生んだ。
 現代では半導体の技術覇権が争われる。「半導体は国家なり」である。半導体が何をつくりだし、何を破壊するのか。私たちの創造力と知恵が試される。
 チップメーカーは、次世代チップの生産をめぐって熾烈な争いを繰り広げている。
 しかし、もはや一つの企業や国家では抱えきれないほどに半導体は巨大な技術集積体となりつつある。人類共有財産(グローバルコモンズ)として考えるべきであろう。
 半導体戦争を煽(あお)るのではなく、チップネットワークを構築しなければならない。
 技術はますます複雑化する。だから、木を見て森を見ずではいけない。森を育てること、つまり豊かな産業エコシステムをつくることが、これからの世界の課題である。

 それを考えるうえでヒントとなったのが、植物だ。
 鮮やかに瑞々しく地球を覆いつくす植物。今日の地球をつくりあげた大革命は、植物が「花」を持ったことで引き起こされた。
 花と昆虫の間に「共生」関係が生まれ、互いが互いを進化させる進化の応酬である「共進化」が起こったのである。
 花の誕生をきっかけに生き物たちの進化が一気に加速した。
 ダーウィンが唱えた進化論では、生存に有利なものが生き残り子孫を残す。つまるところは、この世は競争。しかしながら、最新の科学で解明されようとしている生き物たちの隠された進化の仕組みは、競争するだけでなく互いを支え合う協力のルール、つまり「超進化論」である。

 「半導体の森」を豊かにするためには、「花」を見つけることが大切であろう。そう考えながら、本書では「半導体の超進化論」を説いた。
 まずは、高性能な半導体をいかに製造するかをMore Moore(モア ムーア)とMore than Moore(モア ザン ムーア)の観点で説明した。
 次に、高性能な半導体で何を生み出すかをイノベーションの観点、すなわちMore Peopl(モアピープル)の観点で考えた。
 半導体を競争の時代から共生・共進化の時代に進めるために、半導体の「花」を見つけることができるだろうか。半導体がグローバルコモンズになるためには、お金やムーアの法則以上のものが必要になる。
 それは、多くの人を惹きつけること。
 More Peopleだ。
 本書の出版にあたっては、日経BPの堀口祐介さんにひとかたならぬお世話になった。また、同僚の近藤翔午さんには原稿の推敲を手伝っていただいた。心から謝意を表する。

 2023年3月

黒田 忠広

【目次】

画像のクリックで拡大表示
画像のクリックで拡大表示
画像のクリックで拡大表示
画像のクリックで拡大表示
画像のクリックで拡大表示
画像のクリックで拡大表示
画像のクリックで拡大表示