「どうして子どもはこんな行動をするの?」――子育ての悩みは、「脳と心の発達」を知ることで大きく改善されることがあります。「米国で最も人気の精神科医」と称されるダニエル・エイメン医師と、40年以上の臨床経験を持つチャールズ・フェイ心理学博士の新刊『メンタルが強い子に育てる 「自走できる子」になる脳科学と心理学の最新成果』(鹿田昌美訳/日本経済新聞出版)より、最新の研究から見えてきた「子どもの脳の年齢ごとの変化」を分かりやすく解説します。

「強いメンタル」のスタート地点は「健康な脳」

 脳はあらゆることを動かしている。学校、家族、友人、ビジネス、コミュニティ、そしてあなたを。それなのにほとんどの人は、自分の脳やわが子の脳についてあまり気にかけていない。強いメンタルのスタート地点は「健康な脳」だ。脳について知り、脳を愛し、夢中になれるまで気にかけよう。それがお子さんのためになる。

 また、幼いうちから脳をいたわることを教えるのも非常に重要だ。早いほうが良いが、脳の健康について教えるには、ティーン(13~19歳)でも、成人してからでも、遅すぎることはない。

 頭の中のスーパーコンピューターをもっと詳しく見てみよう。人間の脳は、通常重さが約1.3キログラムで、固さは柔らかいバターや豆腐くらいで、内側に鋭い突起のある硬い頭蓋骨の中に入っている。脳は、生命を創造し、維持するために連携して働くパーツが組み合わさってできている。脳は、学習と愛情と創造と行動をつかさどる、最も複雑かつ驚異的な器官である。

  • 脳は体重の2%を占める
  • 脳は摂取カロリーの20~30%、体内の酸素と血流の20%を消費する
  • 脳内では、情報が時速431キロメートルで伝達される
  • 記憶容量は、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の600万年分の情報に相当する
  • 男性のほうが神経細胞が10%多い
  • 女性のほうが神経細胞の結合部が多い

 出生から成人になるまでの、脳の発達の流れを紹介しよう。

1.出生前と新生児期

 赤ちゃんが生まれるまでに、脳にはすでに1000億個のニューロンがある。ただし、髄鞘(ずいしょう:神経細胞の軸索のまわりを幾重にも包み込む、脂質に富む膜構造)を持つニューロンは比較的少数で、結合部も少ない。

 やがて、絶縁体のような働きをする白い脂肪物質ミエリンが細胞を取り囲み、エネルギーを集中させて一方向に動かすようになる。子どもの脳は10歳までに数兆もの結合部を形成するため、この段階ではできるだけ、髄鞘形成を妨げないようにしたい。

 脳の約4分の3は、遺伝子や環境、経験の影響を受けながら、子宮の外で発達する。幼少期の経験は、発達と学習の土台を作り、脳のつながり方に影響を与える。そしてこのつながりが、感情と言語と思考に作用する。経験が脳の枠組みを作り、形を整える。人は、生まれつきの素質と成育環境の両方が影響し合いながら成長するのだ。

 脳の発達は1歳になるまでに急速に進む。満1歳になると、赤ちゃんの脳の外見が、若い成人の脳に似てくる。誕生から1歳半までの赤ちゃんは完全に母親に依存していて、欲求やニーズを先延ばしできず、自分と母親を同一視し、主に感覚を通して学習する。

2.幼少期

 幼児は、自分が親とは別の人間であることに気づき始め、「イヤだ!」「自分でやりたい!」などと主張するようになる。自立はしばしば恐怖を伴うため、恐れや執着が強くなることもある。適切な監督下で自由な行動を許された子どもは自信を育むが、過剰に管理された子どもは人目を気にするようになる。

 3歳までに、子どもの脳は約1000兆個の結合部を形成する。これは成人の約2倍だ。3歳頃から社会的、知的、感情的、身体的に急速に成長する。この年齢層の脳の活動は、成人の2倍以上になる。新しいシナプスは生涯を通じて形成されるが、脳が新しいスキルをこれほど簡単に習得したり、挫折に適応したりできる時期は二度と来ない

 就学前は、自立と発見の時期だ。この年齢の子どもは自発性と好奇心が強く、質問が止まらない。また想像力が豊かで、現実と空想の区別が難しいこともある。そのため、魔法を使えるなどと思うこともあり、自分の思考にはパワーが宿っていて、周囲のあらゆる出来事は自分の力で起こしたものだと考えたりする。良いことが起こると誇らしく感じ、何か悪いことが起こると罪悪感を覚え、自分のせいではないかと考えて、そうした傾向が一生続くこともある。

3.学童期

 6歳から11歳ごろの子どもは、スポーツや習い事などで友情や絆を築き、同性の親と自分を同一視するようになる。集中力が劇的に高まり、多くの場合、白か黒かの思考になる。安心感を得るために、監督とルールと規律を必要とする。そして、脳は次の主要な発達段階を迎える。この時期の子どもには、問題解決能力を高めるために、徐々に大きな課題に取り組ませてみよう。脳にダメージを与えるスポーツに注意し、就学年齢の子どもには、脳に良い習慣を身につけさせよう。

就学年齢の子どもには、脳に良い習慣を身につけさせよう(写真:shahabat/stock.adobe.com)
就学年齢の子どもには、脳に良い習慣を身につけさせよう(写真:shahabat/stock.adobe.com)
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4.11~14歳ごろ

 11歳ごろになると、脳は余分な結合部を刈り込み始め、具体的で効率的な回路だけが残る。脳は「使わなければ失う」のだ。幼少期に何度も使った結合部は永続し、使わなかった結合部は刈り込まれる。幼いときにスポーツをしなければ、その神経経路は切り取られ、楽器の演奏を学ばなければ、脳はその結合部を切り取る。大きくなってから新しいことを学ぶのが難しいのは、このためだ。

 日常生活における脳の発達は、新しいステージを迎える。11歳から14歳の思考はさらに自立に向かい、自意識に悩み、自分の身体を意識し、親が完璧ではないことに気づいて親の欠点を理解するようになる(これは親が謙虚であり続けるための一助になる)。仲間の影響力が強まり、親しい友人関係が重要になる。また、ルールや制限に疑問を持ち始める時期でもある。

 この時期の子どもには、自立と個性と安全性のバランスのとれた学習が必要だ。ルールを設けながら、親が脳に良い習慣の手本を示そう

5.14~19歳ごろ

 14歳前後になると、さらに自立し、親に文句を言い、母親と父親から感情的に距離を置くようになる。自分の容姿が気になり、友達が最も重要になるが、人間関係は絶えず変化する。10代半ばになると、特定の職業への関心が高まる。17歳から19歳になると、アイデンティティが安定して人間関係も落ち着いてくる。自分の行動の結果を予測できるようになり、ニーズや欲求を先送りすることもできる。他人や自分の将来への関心が高まる。

 この時期の子育てにつまずきやすい最大の理由は、成長するにつれて親の期待が増える一方で、ティーンはまだ大人の脳の能力を持っていないことだ。「年相応なふるまいで」、正しい行動をとれない子も多い。だが、親が脳の仕組みを正しく理解することで、度を越えた子どもの言動にも、共感とサポートを示すことができる。お子さんに「受容」と「同意」の違いを理解させよう。

 子どものころの脳の発達が重要だと知って、「脳に良い習慣を早くから始めなかった」ことを気にする方もいるかもしれない。だが幸い、健康な脳のための取り組みは、いつ始めても遅すぎることはない。最良の基礎を築いていなくても、状況は変えられる。

精神科医でベストセラー作家と、学校や精神科で長年現場に立ち続けてきた心理学博士の2人が、25万件以上の脳画像から得られた知見と40年以上の臨床経験をもとに、「子どもの折れない心」の鍛え方を、脳科学と心理学の両面から分かりやすく説きます。

ダニエル・エイメン、チャールズ・フェイ著/鹿田昌美訳/日本経済新聞出版/2640円(税込み)