「厳しくしないと子どもは強く育たない?」――しつけをめぐる親の悩みは尽きません。ですが、お子さんの心の強さを鍛えるのは、𠮟責や禁止ではありません。「米国で最も人気の精神科医」と称されるダニエル・エイメン医師と、40年以上の臨床経験を持つチャールズ・フェイ心理学博士の新刊『メンタルが強い子に育てる 「自走できる子」になる脳科学と心理学の最新成果』(鹿田昌美訳/日本経済新聞出版)より、子どもの自制心と自発性を育む「しつけ」について解説します。

「しつけ」とは何か?

 「しつけ」という言葉に、どういうイメージを持つだろうか?

 一言で言うと、「しつけ」とは教えることだ。規律を与えることを意味する「しつけ(discipline)」という言葉は、「指導」や「訓練」を意味するラテン語のdisciplinaに由来している。また、discereという言葉にも由来しており、こちらは「学ぶ」という意味だ。「しつけ」とは、「善と悪、良い行動と悪い行動、健全な決定と不健全な決定を見分ける方法を学ぶ」ための「指導と訓練」を提供することだ。

 ところが、「しつけ」の意味が時とともに私たちの中で歪(ゆが)んでしまい、「しつける」という動詞に、次のように異なる定義がなされるようになった。

  1. 服従を強制し、人格を磨くために、罰やペナルティを与えること
  2. 指示によって訓練・指導し、自制心を鍛えること

 多くの親は、「1.」の定義を信じている。服従を強制し、人格を磨くために、子どもに罰やペナルティを与えるのだ。しかし、このやり方には問題がある。完全な人格を持つ人などいない。子どもの世話を任せたり、車を貸したり、お金の管理を任せたりできるほどに信頼のおける人は大勢いるが、誰一人として完全ではない。親がわが子の人格を磨くために罰を与えることは、勝者のいないゲームに参加するようなものだ。「完璧」は、達成可能なゴールではない。

歴史と科学的根拠が示す「子育ての真実」

 人に強制し、従わせようとした結果について、歴史から得られる教訓を考えてみよう。

 心理学者のクルト・レヴィン、ロナルド・リピット、ラルフ・ホワイトらは、1930年代にリーダーシップのスタイルに関する基礎研究を始めた。社会心理学の創始者とされるレヴィンは、この問題に個人的な関心を持っていた。ナチスドイツから逃れたユダヤ人である彼は、ホロコーストを黙認した社会構造について理解したいと考えたのだ。当時の人々があらゆることが許されると思ったのは――その逆であることは明白なのに――なぜだったのか?

あなたは権威主義的なスタイルで子どもを育てていないだろうか?(写真:kapinon/stock.adobe.com)
あなたは権威主義的なスタイルで子どもを育てていないだろうか?(写真:kapinon/stock.adobe.com)
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 レヴィンと仲間の心理学者たちは、興味深い実験を考案し、10歳の少年たちのグループに、教師が次の3つのリーダーシップスタイルで教えたときの行動を調査した。

  • 権威主義的 教師が行動を指示し、グループに発言権がない。例:「親に言われたことには従いなさい」などと言う「鬼軍曹タイプ」の親
  • 自由放任的 教師が介入せず、グループがすべての決定を独自に行う。例:子どもを静かに過ごさせるために、iPadを手渡す「甘やかすタイプ」の親
  • 民主的 教師がファシリテーターとなり、グループが意思決定に貢献する。例:子どもに大半の決定権を与えながら、必要に応じて介入する「コンサルタントタイプ」の親

 結果はどうだったか? 出された課題に対し、生産性が最も高かったのは、権威主義的なグループだった(70%)。独裁者が「これをやれ。さもないと……」と命令するときに威圧的であることを考えると、これは驚くには当たらない。しかし、レヴィンと仲間の心理学者たちは、教師がいないときに何が起こるかのほうに関心を持った。権威主義的な教師が教室を離れると、生産性が30%近くまで急落したのだ。子どもたちにとって、それはパーティータイムだった。

 一方、自由放任的なグループの生徒は、教師がいるかどうかに関係なく、生産性が最も低かったが(33%)、基本的に常に制御不能なので、これは驚くには当たらない。

 では、民主的な教師の生徒はどうだったか? 生産性は50%だったが、教師が教室を離れたときの生産性は46%にとどまった。子どもたちは意思決定を経験し、教師がいないときでも生産的になれるだけの自制心と自発性を身につけていた。

(出所)『メンタルが強い子に育てる』
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「自制心」と「自発性」が大切な理由

 自制心と自発性は、強いメンタルの重要な要素だ。レヴィンはこの実験から「人間は車やマットレスの中にあるバネのようなものだ」と結論づけた。子どもがコイル状のバネだと想像しよう。親は、強力なバネを一時的に押し下げることはできても、遅かれ早かれ、疲れたり、出張に出かけたり、子どもが大学へと巣立ったりする。すると突然、親のプレッシャーがなくなったバネは、圧縮されたのと同じ力で跳ね返り、制御不能になるのだ。

 あなたは、しつけの「1.」の定義を信じ、権威主義的なスタイルで子どもを育てていないだろうか? もしそうなら、お子さんは、親の前では行儀よくしていても、成長とともに家の外で過ごす時間が増え、より難しい決断や誘惑に直面したときに、自己管理できない可能性がある。外側から子どもをコントロールすることに多くの時間を費やすよりも、子どもが自発的に行動できるように手助けするほうが、はるかに良いだろう。

 また逆に、制限の設定や実施が不十分ではないか、よく考えてみよう。あまりにも寛容すぎたり、放任的になりすぎたりしていないだろうか。適切なバランスをとるのは簡単ではない。だから、次の大切な言葉を、もう一度思い出そう。

 上手な子育ては、愛情深く、同時に厳格である。

精神科医でベストセラー作家と、学校や精神科で長年現場に立ち続けてきた心理学博士の2人が、25万件以上の脳画像から得られた知見と40年以上の臨床経験をもとに、「子どもの折れない心」の鍛え方を、脳科学と心理学の両面から分かりやすく説きます。

ダニエル・エイメン、チャールズ・フェイ著/鹿田昌美訳/日本経済新聞出版/2640円(税込み)