スマートフォンから自動車、兵器、人工知能(AI)に至るまで、あらゆる技術革新の中核を担う半導体。産業界に限らず、株式市場や国際政治においても半導体の重要性は高まり続けています。ビジネスパーソンや投資家、政策担当者が身につけておきたい半導体産業の基礎知識から2026年現在の企業間、国家間競争の最前線までを描いた書籍『半導体覇権 国家に翻弄される巨大企業』(日本経済新聞社編/日本経済新聞出版)から一部を抜粋・再構成してお届けします。今回は「エヌビディアとオープンAIの提携に関するメリットと危うい点」についてです。

エヌビディアはオープンAIと強者連合

 「これは歴史上、最も巨大な計算インフラの計画だ」。2025年9月、エヌビディアはオープンAIに最大1000億ドルを投資すると発表した。エヌビディアのジェンスン・ファン最高経営責任者(CEO)は本社でオープンAIのサム・アルトマンCEOと並び、提携の意義を訴えた。

 オープンAIは新たに電力容量10ギガ(ギガは10億)ワット規模のデータセンターを構築する。第1段階として26年後半にエヌビディア製の次世代AI半導体「ルービン」を搭載したAI開発インフラを整備する。

 エヌビディアはインフラ開発の進捗に応じ、オープンAIに投資する。まずは1ギガワット分のインフラ構築に合わせて100億ドルを出資する。その後も段階的に投資額を増やす方針だ。エヌビディアはAI半導体で約8割のシェアがあり、独走状態にある。

 一方でオープンAIもAIの基盤モデルの開発で常に先頭を走り、同社が手掛ける対話型AI「ChatGPT」は毎週8億人が利用する。AI半導体とAI基盤モデルのトップ企業同士が組む「強者連合」となる。エヌビディアはオープンAIを開発面で初期から支えてきた。

 16年にはエヌビディアのファン氏がサンフランシスコにあるオープンAIのオフィスを訪れ、AI専用サーバーを手渡した。今回の投資で長年の関係を一段と深める。

 エヌビディアにとって投資の原資となるのはAIブームの果実だ。AI半導体の急速な需要拡大を受け、エヌビディアの手元資金は急速に積み上がっている。25年7月末時点で同社の現金および現金同等物は567億ドルと1年前に比べて6割増えた。巨額の収益を背景として産業エコシステムをより強固にするために再投資を加速する。

 今回の提携は両社にとってメリットがある。エヌビディアはオープンAIのデータセンター投資を後押しすることで自社の事業拡大につながるほか、オープンAIの株式の将来的な価値向上を期待できる。一方でオープンAIにとってもエヌビディアから資金調達することで、脆弱な財務基盤を強化してAIへの先行投資にアクセルを踏みやすくなる。

 ただ、顧客に投資するエヌビディアの手法には懸念もある。エヌビディアは過去にも、AI向けクラウド企業やモデル開発企業に出資した実績がある。出資を受けた企業は資金をエヌビディア製のAI半導体といった開発資源に投じてきた。

 オープンAIとの提携も構図は同じだが、規模が格段に大きくなる。オープンAIが今回の提携で購入する半導体がすべて同社製だと仮定すると、エヌビディアは代金として最大3500億ドルの収益を得られる。オープンAIに投資する資金が循環し、販売収益としてエヌビディアに戻ってくる構図だ。

専門家が懸念する危うい「循環取引」

 米ハーバード大のケネディ行政大学院のシニアフェロー、パウロ・カルバン氏は「こうした循環的な取引には、企業が互いに資金を供給し合って成長を水増しした『ドットコムバブル』時代の面影がある」と指摘する。エヌビディアのディールをきっかけに、米国では「AI投資はバブルでは」という懸念がささやかれるようになった。

 顧客に対して自社製品の購入資金を提供する手法は「ベンダーファイナンス」と呼ばれる。2000年前後のドットコムバブルでは、通信機器大手が資金力に乏しい顧客に融資して購入を支えた。実需よりも投資規模が膨らみ、バブルが弾けると融資が焦げ付いた。

 当時ベンダーファイナンスを使ったのは、米シスコシステムズや米ルーセント・テクノロジーズ、カナダのノーテル・ネットワークスといった通信機器大手だ。ITが普及する時代に不可欠なインフラを握る企業として期待された。

 シスコの株価は2000年3月に1株80ドルを突破し、当時時価総額は5000億ドルを誇った。その時点で時価総額は世界一だった。株価は3年前から10倍に急伸したものの、ITバブルの崩壊によってピーク時から1年後には5分の1にしぼんだ。

 それから25年たった今もシスコの時価総額はピーク時の半分程度にとどまり、ITバブルを超えられていない。足元のエヌビディアの株価も3年前と比べて10倍超に急伸しており、市場関係者は「AIバブル」の懸念を声高に主張し始めている。

 米VCのセオリーベンチャーズによると、エヌビディアの顧客支援の金額はITバブル時代のルーセントの約14倍だ。循環投資によってAI半導体の売り手と買い手が相互に依存する。1社が崩れたときに共倒れになるリスクが高まっている。

オープンAIのサム・アルトマンCEO(写真:筆者撮影)
オープンAIのサム・アルトマンCEO(写真:筆者撮影)

(第3回に続く)

株式投資やビジネス判断に役立つ知識として、半導体産業を網羅的に把握したい人のための、日本と世界の行方を読む1冊。インテル、エヌビディア、TSMC、サムスンといった大手企業はもちろん、中国や日本、インドなどの動きも収録。

日本経済新聞社編/日本経済新聞出版/2200円(税込み)