(写真:ra2 studio/stock.adobe.com)
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※日経ビジネス電子版の連載企画「書店再興」を基にした新刊『書店再興 まちの本屋さんのゲームチェンジのために』が2026年3月27日に発刊しました。このコラムには同書のベースとなった記事をセレクトして転載しています。その第25回。

 国内の老舗書店、紀伊國屋書店が、蔦屋書店を擁するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)、日本出版販売(日販)と組んで、ブックセラーズ&カンパニー(以下、BS&Co.)を設立し、書店主導の流通改革に乗り出した。インタビュー後編では、設立から2年目の実際を聞いていく。

宮城剛高(みやぎ・よしたか) ブックセラーズ&カンパニー社長
宮城剛高(みやぎ・よしたか) ブックセラーズ&カンパニー社長
1977年生まれ。2000年、慶応義塾大学環境情報学部を卒業し、紀伊國屋書店に入社。新宿本店で雑誌、文学、人文を担当。05年からマレーシア・クアラルンプール店、09年から米国の紀伊國屋書店ニューヨーク本部、14年から豪シドニー支配人勤務を経て、17年に帰任。店売推進部で国内店舗システム、店舗管理に携わる。23年、ブックセラーズ&カンパニー社長に就任。(写真:ブックセラーズ&カンパニー)

ブックセラーズ&カンパニー(以下、BS&Co.)は、書店の利益率改善の方策として、「直仕入れ」「適正仕入れ」「売り上げ向上」という3つの実現を掲げています。前編では「直仕入れ」についてうかがいましたが、「適正仕入れ」については、どのような状況でしょうか。

BS&Co.代表取締役社長・宮城剛高さん(以下、宮城):書店業界の特殊性として、再販制度(再販売価格維持制度)、委託販売制度がよくいわれますが、もう1つ、出版社や取次による「見計らい配本」というものがあります。これは、書店が注文しなくても、出版社や取次の見計らいで、書店に回す商品と冊数が自動的に決まって、流通が回っていくというシステムです。

津波のように段ボールで書籍がやってくる

書店の朝の日課は、取次から届く段ボールを開くこと。そこには、取次が見計らいで詰めた商品(主に新刊本)が詰まっている、という慣習ですね。膨大な点数の新刊から本を選ぶという手間の軽減になる一方で、売り上げが見込めるベストセラーが、大手書店優先で配本されたり、その書店では売れそうにない本が抱き合わせで配本されたりと、書店にとって商品選択の自由が狭くなるというひずみにもなっています。

宮城:書店当事者としての我々は、自分たちの意志で注文する本を決めて、仕入れた本は、きちんと売っていくということにこだわっています。

 これは商売として当たり前のことですが、ただ、この業界は見計らい配本というシステムで回ってきたことも事実です。

現在の書店・出版業界には、まちの書店は減っているのに、出版点数は増えているという、ねじれ現象があります。その中で、とにかく書店には毎日、津波のように新刊本が送られてきてしまう。

宮城:その慣習が、書籍で37%、雑誌で45.9%(出版科学研究所、2025年6月)という高い返品率につながっていて、そのリスクを出版社が抱える形になっています。BS&Co.では直仕入れと、仕入れの適正化によって生まれる利益を、書店と出版社でシェアしていく考えです。

「適正仕入れ」の実現とは、すなわち返品率の減少ということですね。実績は上がっていますか。

宮城:BS&Co.の取引では返品率を25%まで下げることを当面の目標にしています。直近で、30%を少し切るぐらいの数字になっています。

適正化に向かっているんですね。ただ、返品削減が目標として機能することは、出版社にとっては、書店側に仕入れを控えさせてしまう恐れも出てくるのでは。

宮城:その通りですので、BS&Co.では実売率を高めた結果として返品率を下げる、すなわち売り上げを伸ばしていくことに焦点を当てています。「直仕入れ」「適正仕入れ」「売り上げ向上」の3つの実現とは、順番に取り組むものではなく、同時に回していく正のサイクルなんです。

なるほど。

出所:BS&Co.(以下同)
出所:BS&Co.(以下同)
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宮城:このグラフは、24年3月にBS&Co.をスタートしてから1年ちょっとの間の推移です。棒グラフの青い棒が仕入れから返品を差し引いた純仕入れです。緑の棒が店頭の売り上げです。

 スタート時は出版社も書店も数が少なかったので、取引も小さかったのですが、今年(25年)の4月、5月には店頭売り上げが8億円を超えて、6月は10億円を超える見込みです。

スタート当初は店頭売り上げよりも純仕入れの方が大きかったのが、1年たった時から、純仕入れを店頭売り上げが上回るようになっていますね。そして、金額自体も当初から大きく膨らんでいます。この推移は予測通りですか。

宮城:目標はもっともっと上です。店頭売り上げは、この会議室の天井ぐらいまで増やしていかないとダメだと思っています。

将来的に?

宮城:いえ、将来ではなく、来年ぐらいにはそこまでいかないと。今、ここで売り上げを拡大していかないと、どんどん書店がつぶれていってしまう。スピード感はすごく意識しています。

愚直に自分で仕入れて売れば数字が出る

棒グラフの一方で、折れ線グラフは下降傾向ですが、これは何を意味するのでしょうか。

宮城:折れ線グラフは返品率です。黒い線が前年の返品率で、オレンジの線がBS&Co.が直取引を始めて以降の取引出版社の返品率です。月によって上がり下がりはありますが、全体的に下降線を描いているということは、我々の取り組みが功を奏しているということだと思っています。

 書店が出版社から直で本を仕入れ、きちんと売る。そのことを愚直にやれば数字に表れるんだな、と実感しています。

黄色の部分が、要・注目の書店の粗利率ですね。

宮城:我々は書店の粗利率30%を1つのベンチマークにして、まずはそこを目指そうとしています。これも月によって上下があります。30%を大きく超える月もあれば、下回る月もあり、現在の通算平均でいうと29%台になっています。

ということは、目標に近い。いい感じではないですか。

宮城:はい。ただ、まだ30%に到達し切れていないので、どうやってそこを超えていくかも、目下の課題です。

どのような方策に可能性があるとお考えですか。

宮城:1つはデータですね。BS&Co.には、いろいろな書店のバイヤーが集まっていて、各店舗の実績データを串刺しで見られるようになっています。

 BS&Co.では毎週、バイヤーたちがミーティングを行って、前週の実績を見ながら、何が売れているか、動いているか、そのデータを把握して、仕入れを検討しています。これまでは各書店の中で閉じていた実績を、お互いに共有できる。そのメリットは大きいですね。

具体的に、どのようなメリットでしょうか。

宮城:紀伊國屋ではあまり売れてないけれど、蔦屋書店ではすごく売れている商品や、その逆がちょこちょこ出てくるのです。

 だとしたら、売れている店はどんな展開をして、どういう人が買っているのか。そのような情報を全員が集まる場でリアルタイムにやりとりすることによって、バイヤーの仕入れと販売手法の感度が磨かれていきます。そのサイクルを回していくことで、販売力の向上が見込めるのです。

その裏付けも取れているのでしょうか。

「売れる芽」を花開かせた実例

宮城:グラフの下に、緑で記している数字は日販の全国POSと、BS&Co.で取引のある書店のPOSの、取引出版社における前年比の差を表すものです。

 今までに、そこがマイナスになったのは、24年5月だけで、ならしてみると、我々の方が売り伸ばしてきています。それは、バイヤーが毎週のように会議を行って、情報を積み上げている成果だと考えていますので、ここのプラス差をもっと広げていきたいですね。

BS&Co.のバイヤー主導で、売り上げが上がったという事例はありますか?

宮城:例えば『犬が伝えたかったこと』(三浦健太・著、サンクチュアリ出版)は、事例の1つだと思います。こちらの本は、NICリテールズという日販のグループ書店で、ひと月に100冊以上を売り上げていたタイトルです。

 NICリテールズでもプロモーションに力を入れていましたが、売り上げの勢いがありましたので、バイヤー会議を経て、紀伊國屋とTSUTAYAも一緒にプロモーションを仕掛けていくことにしました。すると、紀伊國屋ではひと月23冊が47冊と倍に、TSUTAYAではひと月82冊が309冊と、ほぼ4倍になったんです。

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注目を集めつつあるタイミングでプッシュして、販売のチャンスを逃さなかった、ということですね。

宮城:そうなんです。ほかにも、売れる芽があったのに在庫化していた本を、店頭での共同プロモーションで売り伸ばした例もあります。現場力を磨くことによって、売り上げはもっと伸ばせますし、取引のある出版社とはウィン-ウィンの関係を築いていける。そのことを実感しました。

逆にいうと、立地や客層、個性が違う店舗が、売り上げデータを共有して、仕入れを調整することは、これまであまりされてこなかった。

宮城:ナショナルチェーンの本部では、そういう作業はずっと行ってきていると思いますが、会社を越えての情報共有はこれまで、できませんでした。その空白を埋めることが、BS&Co.の利点の1つになると思います。

 また、既存の見計らい配本は、一律に本を配送し、返品も多く発生していました。BS&Co.では今後、書店チェーンの垣根を越えて在庫を動かす「店舗間ローリング」を、本格的に稼働していく考えです。

ローリングの効率的な運用では、どこで何が売れているとか、何が不足しているといったデータが不可欠。そのデータがBS&Co.に一元化されることは強みになりますね。その場合、物流はどうするのでしょうか。

宮城:そこを日販の物流拠点に担ってもらっています。BS&Co.では、在庫偏在をチェックし、出庫の指示と受注の促進を行う。それらに関する請求や精算処理などバックオフィス業務も当社から日販に委託しています。

前編でもお尋ねしましたが、ここまでやるとなると、BS&Co.の手数料はそれなりに高額になりそうです。加盟店側の負荷はどうなのでしょうか。

宮城:BS&Co.がコストセンターになることは避けなければならないと、それは設立当初から考えています。在庫の店舗間ローリングについても、すでに存在している仕組みやデータを極力活用する形で組み立てており、書店に追加コストを求める設計にはしていません。

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なるほど。出版流通に限らず、すべての業界で、流通の仕組みは一朝一夕では理解しにくいものですが、書店に関するサプライチェーンでは、最適化に向かえるところは多々あった。BS&Co.では、そこを組み直している、ということが分かりました。

宮城:出版社サイドも同様の問題意識を持っていただいています。講談社、小学館、集英社は総合商社の丸紅と組んで、サプライチェーンをDX(デジタルトランスフォーメーション)で最適化する「PubteX」という会社を設立されました。経済産業省もDX化のサポートを明言されています。(「経産省が書店に関わろうと考えた背景」「RFID導入で本の万引き件数が約1400冊から66冊に激減」)川上でそのような機運がある中で、我々は川下からリスクを取って業界を変えていこうとしています。その動きはBS&Co.の特徴の一つかな、と思います。

この「書店再興」シリーズでは、既存のステークホルダーとは違う方面から、書店を再興していく動きを、あえて追ってきました。例えば日販グループの「ひらく」では、「本を読む場づくり」をビジネスにしています(「日本独特の『取次』が経営する本のホテルと“喫茶店”」)。本+飲食業、本+地域づくりという複合ビジネスも、さまざまに登場しています(「新刊書店は成り立つことを『本屋B&B』で証明したい」)。BS&Co.でも、その方向は取り入れていきますか。

宮城:「ブックセラーズ&カンパニー」という名前を冠する会社として、我々は「本を売ること」にこだわっていこうと考えています。何を売りたいかというと、それは本であり、本を売ってもうけることがビジネスの本領なのです。

なるほど、書店業界の「本丸」ならではのお言葉です。

メインストリームから飛び込む最初のペンギン

宮城:デジタル全盛の時代になって、紙の本がオワコンだ、みたいな意見も耳にしますが、私自身は、紙の本がなくなることは絶対にないと思っています。日本で独立系書店さんがたくさん登場していることは、その表れですし、文学フリマも盛況です。これは国内だけに限らず、海外でも同じなんです。

そうなんですか。

宮城:欧米、アジア、オーストラリアと、さまざまな国でも、店主の個性が感じられる独立系書店が登場している。海外駐在時代に、その現場を見て、活字や紙の本が好きな人が世界中にいることを実感しました。若い世代も、本をよく読んでいます。そんな若い人が自分の好きな本を扱うことを仕事にしていきたいと思った時に、日本の今の書店ビジネスだと、商売として成り立ってないので、あきらめてしまう。それは大きな機会ロスだと思うんです。

本は「商材」というべきか、「文化」というべきか、とらえどころのない不思議な対象ですね。だから、利益率が低くても、逆にがんばって、苦しくなってしまうこともあります。

宮城:本は単なる「商材」とは違うと思うのですが、一方でメーカーがあって、卸があって、小売りがあって……というビジネス構造は、ほかの商売と同じ。その点で、とらえ方が難しいものだとは思います。

現時点で利益率は改善すべきだけど、数字とは別の「価値変数」があって、皆がそれぞれに思い入れを持っていて、それで業界全体が何とかもっています。

宮城:ですので、まずは自分たちがファーストペンギンとなり改革を進めて、書店を収益性の高い商売に変えていく。そのモデルは、ゆくゆくは全国の書店さんへと波及させて、業界全体で豊かな未来を築いていければと、これは私が勝手に思い描いていることなのですが(笑)。

メインストリームが強くないと、支流も先細ってしまう。それは、書店業界に限らず、すべての業界に通じることだと思います。大手、本流が取り組む改革に期待しています。

(BS&Co.編、おわり)

日経ビジネス電子版 2025年8月27日付の記事を転載]

「本屋さんがなくなる」悲観論ばかりが叫ばれる書店業界で、直木賞作家・今村翔吾氏を初め、個人が、企業が立ち上がる。経済産業省や地方自治体も黙っちゃいない。昭和の発想を切り替えて、書店を「頑張れば稼げる」ビジネスに変えていく具体的な試みはいくつもある。これらの発想は異業種にも応用可能だ。

清野由美(著)/日経BP/2530円(税込み)