その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は井上顧基さん、下垣内隆太さん、高島直也さん、澤風吹さんの『 作ってわかる大規模言語モデルの仕組み 』です。
【はじめに】
ChatGPTの衝撃 ── なぜ今、LLMを学ぶのか
2022年11月30日、OpenAIがChatGPTを公開した瞬間、世界は変わりました。
公開からわずか5日で100万ユーザー、2カ月で1億ユーザーを突破。Instagramが同じ規模に達するまでに2年半、TikTokでも9カ月かかったことを考えると、これがいかに異常な速度だったかがわかります。
ChatGPTの何が私たちをこれほど驚かせたのでしょうか。
それは、人間と自然に対話できるAIが、ついに実現したという事実です。過去のAIシステムは特定のタスクに特化していました。画像認識AI、翻訳AI、チェスAI──それぞれが別々のシステムでした。一方のChatGPTは、質問応答、文章生成、翻訳、コード生成、要約、創作など、あらゆるタスクを単一のモデルでこなします。まるで知識豊富な友人と会話しているかのような自然さで。
この革新的な技術の背後にあるのが、大規模言語モデル(Large Language Model:LLM)です。
LLMは膨大なテキストデータから言語のパターンを学習し、文脈を理解し、適切な応答を生成する能力を獲得しています。本書は、この驚くべき技術を基礎から理解し、自分の手で実装できるようになることを目指します。
本書の特徴と学べること
本書は、LLMの基礎理論から実装まで、体系的に学べることを目指しています。単に概念を説明するだけでなく、実際に動くコードを通じて、LLMの仕組みを深く理解できるように構成されています。
- 一からLLM(GPT-2相当)を作りながら学べる:Transformerの基礎からGPTモデルの実装まで、段階的にコードを書きながら理解を深めます
- アラインメントの仕組みを実装で学べる:GPT-2だけでは実現できなかった「人間の意図に沿った応答」を生成するための技術(SFT、DPO)を、実際のコードで体験します
- 最新の推論モデルまでカバー:Chain-of-Thought(CoT)や推論モデルなど、2025年以降の最新技術についても解説します
この本で学べること
- Transformerアーキテクチャの詳細な仕組み:アテンション機構、位置エンコーディング、フィードフォワード層など、Transformerを構成するすべての要素を理解
- GPTモデルの学習と推論:「nanoGPT」をベースに、GPTモデルをゼロから実装し、実際のデータで学習させる方法
- Tokenizer(トークナイザ)の実装:BPE、WordPiece、SentencePieceなど、テキストを数値に変換する仕組み
- 大規模学習のテクニック:Scaling Law(スケーリング則)、データセットの準備と前処理、学習の効率化(LoRA)
- アラインメント技術:インストラクションチューニング(SFT)とDPOによる、人間の好みへの適合方法
- 実践的な実装スキル:PyTorchを使った実装、学習ループの構築、モデルの評価
できるようになること
本書を読み終えた後、以下のことができるようになります。
- Transformerモデルをゼロから実装し、翻訳タスクで学習させる
- GPTモデルを自分のデータで学習させ、文章を生成させる
- インストラクションチューニングにより、モデルを特定のタスクに適応させる
- DPO(Direct Preference Optimization)により、モデルの出力を人間の好みに合わせる
- LoRAなどの効率化技術を使って、限られた計算資源でファインチューニングを行う
本書の構成スタイル
本書は、各トピックについて以下の3段階で説明します。
- おおまかな説明:概念を直感的に理解するための説明や図
- 実装コード:実際に動くPyTorchコードで実践的に理解
- 数式を含む詳細な説明:理論的な背景を数式で厳密に理解
この3段階のアプローチにより、「何となくわかった」ではなく、「理論も実装も理解した」という深い理解を得られます。数式が苦手な方は、おおまかな説明と実装コードを中心に読み進めることもできますし、理論を深く理解したい方は数式の部分もじっくり読むことで、より深い洞察を得られます。
対象読者
本書は、以下のような方を主な読者として想定しています。
- LLMの仕組みを根本から理解したいエンジニア:API( Application Programming Interface)を叩くだけでなく、内部で何が起きているのかを知りたい方
- 機械学習・深層学習を学び始めた方:ニューラルネットワークの基礎は知っているが、最新のLLM技術を体系的に学びたい方
- AI技術に興味のある学生:将来AI分野でキャリアを築きたいと考えている方
前提知識
本書を読み進めるにあたり、以下の知識があると理解がスムーズです。
- Pythonの基礎:関数、クラス、リスト内包表記など、基本的な文法を理解していること
- PyTorchの基礎:テンソル操作、nn.Module、学習ループの基本的な書き方を知っていること(基本的な内容は巻末の付録で解説しています)
- 機械学習の基礎概念:損失関数、勾配降下法、過学習といった基本用語を理解していること
- 線形代数の基礎:行列の積、転置、内積などの基本的な演算を知っていること
これらの前提知識に不安がある場合でも、コードを動かしながら読み進めることで、徐々に理解を 深めることができます。必要に応じて、PyTorchの公式チュートリアルや機械学習の入門書を参照し てください。
謝辞
本書の執筆にあたり、多くの方々のご支援とご協力をいただきました。
本書のレビューには、からあげ氏、鄭晟徹氏、髙島和起氏(五十音順)にご協力いただきました。技術的な正確性の確認はもちろん、説明の分かりやすさや構成についても多くのフィードバックをいただき、本書の品質向上に大きく貢献していただきました。お忙しい中、原稿に目を通し、丁寧なご指摘をくださったことに心より感謝いたします。
最後に、本書を手に取ってくださった読者の皆様に感謝いたします。LLMという急速に発展する分野において、本書が皆様の学習の一助となれば幸いです。
【目次】







