その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は平島綾子さんの『 “アニメ”経済圏(エコノミー) 現地取材とデータで解き明かす世界戦略のシナリオ 』です。

【はじめに】

 2025年、日本のアニメは世界の「主役」の一角に躍り出た。

 この年、世界の映画興行収入ランキングには、日本のアニメ映画が次々と名を連ねた。『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』は、全世界興収約1000億円(約1063億円)を超えるヒットとなり、劇場版『チェンソーマン レゼ篇』もまた、世界の映画館で大きな存在感を示した。

 それは、単に「日本の人気アニメが海外でも受けた」という話ではない。

 2025年7月、ロサンゼルスの「アニメエキスポ」には世界65の国と地域から延べ約41万人が来場し、会場の外まで熱気があふれていた。12月のスペイン「マンガバルセロナ」では、マンガとアニメが若者文化に入り込み、日本企業にとっての欧州、そしてスペイン語圏への入口になろうとしていた。

 現地で感じたのは、「日本のアニメが好きな人が増えた」という単純な変化ではなく、かつては一部の熱心なファンが探し出して見ていた作品が、今では世界のプラットフォームに並び、同時に配信され、映画館で公開され、SNSで拡散され、グッズやライブやゲームへと広がっていく。日本のアニメは、作品単体ではなく、巨大な経済圏として動き始めていた。

 本書を『“アニメ”経済圏』と名づけたのは、そのためである。

 アニメはいまや、ただ「見る」コンテンツではない。マンガ、映画、音楽、ゲーム、ライブ、グッズ、小売、観光、広告、さらには企業の海外戦略にまで波及する、極めて強い入口になっている。1本のヒット作が、ファンの熱量を生み、その熱量が次の消費を呼び、さらに別の産業へ広がっていく。これまで日本のエンタテインメントが得意としてきたIP(知的財産)の力が、デジタルとグローバル配信によって、まったく新しいスケールで動き始めたのだ。

 この潮目に、国も動いた。2025年6月、経済産業省は2033年にコンテンツ産業の海外売上高20兆円を目指す戦略を打ち出し、11月には政府の成長戦略で定める「戦略17分野」にコンテンツ分野が位置付けられた。ゲーム、アニメ、マンガ、音楽、映画、キャラクターといった日本発のコンテンツを、産業へ育てていく。その方向性が、官民共通の課題として明確に示されたのである。

 だが、ここで立ち止まって考えなければならないことがある。

 世界で見られていることと、世界で稼げていることは同じではない。世界中にファンがいることと、その価値を日本側がきちんと回収できていることも、また別の話だ。海外配信、劇場公開、現地イベント、グッズ販売、データ活用、海賊版対策、プラットフォームとの交渉──本当に世界で伸張するには、作品力だけでなく、届け方、売り方、守り方、広げ方のすべてを、コミュニケーションを通して、相手を知り、設計する必要がある。

 本書が向き合うのは、その問いだ。

 なぜ、いま日本のアニメは世界でここまで強くなったのか。

 そして、その熱狂を、どうすれば持続的なビジネスに変えられるのか。

 この本は、「日本のアニメが世界で人気らしい」とは知っているが、その仕組みまではよく分からないというビジネスパーソンに読んでいただければと考えている。

 商社、メーカー、小売り、広告、自治体、観光、スタートアップ、海外事業担当者。今、アニメやIPの周辺には、これまでエンタメ業界の外側にいた企業や人々が次々と集まり始めている。なぜなら、そこには、海外市場を開くためのヒントが詰まっているからだ。ファンをどう育てるか。熱量をどう可視化するか。現地パートナーとどう組むか。巨大プラットフォームとどう向き合うか。価格をどう設計し、どこで収益を回収するか──アニメの最前線で起きていることは、世界へ挑むあらゆる産業に通じる。

 本書では、まず2025年という転換点を、映画『鬼滅の刃』と『チェンソーマン』を軸に読み解く。次に、なぜ“ANIME”が世界の主役になったのかを、配信、ファンダム、IP展開、地域別市場の変化から整理する。そのうえで、クランチロール、ネットフリックスといったプラットフォーム、米国、スペイン語圏の現場や成長が期待されるインドネシア・インドを見ていく。

 後半では、韓国ウェブトゥーンや中国アニメの台頭、国の政策、今後の戦略に必須のデータ活用、ハリウッド実写化、そして三菱商事、アミューズ、サイバーエージェントなど、アニメを起点に新しいグローバル戦略を描く企業の動きも見ていく。

 本書では、現場、データ、企業、政策という4つの視点を重ね合わせることで、今、日本のエンタテインメントに何が起きているのかを1枚の地図として描こうとしている。

 舞台は、もはや日本国内だけではない。日本で生まれた作品が世界で「同時」に受け取られ、世界のファンによって育てられ、世界の企業やプラットフォームとともに広がっていく時代が始まっている。

 その最前線で何が起きているのか。

 そして、日本はこの好機を、本当に次の産業へと育てられるのか。

 まずは、その号砲となった2025年の2本の映画から、扉を開けていこう。

【目次】

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