高卒バイトから24歳で社員に登用され、𠮷野家ホールディングス(HD)のトップに上り詰めた河村泰貴氏。子会社のうどんチェーンはなまる時代を含め、18年間社長を務め、その間、自らの生き方や仕事術、人生哲学をつづった560通のメッセージを従業員に送り続けた。無気力で何の取りえもない若者が、どのようにして変貌を遂げたのか。そのエッセンスをまとめた新刊『自分以外のすべてがわが師』から、抜粋してお届けする。その第2回。
「うまい、やすい、はやい」は、𠮷野家が創業時から大切にしている価値観です。この語順は、お客様にご提供している価値の順位を表しており、実は、時代とともにこの三つの要素の順番を変えてきました。
チェーン化開始から1990年代までは「はやい、うまい、やすい」でしたが、90年代から2000年までは「うまい、はやい、やすい」、2001年の価格改定(牛丼並盛を400円から280円に値下げ)以降は「うまい、やすい、はやい」となり、現在もこの順番で使っています。
そして、この言葉は、飲食店がお客様に提供する価値についてだけではなく、あらゆる仕事に当てはまる普遍的な価値である、と当社では位置づけています。

仕事で心がけるべきは「やすい、はやい、うまい」の順
ただし、仕事に置き換えて考える際は、優先順位が少し変わり、「やすい、はやい、うまい」の順になります。
まず「やすい」です。すなわち、仕事量をたくさんこなす。薄利多売の商売のように、アウトプットを増やす。質はそれほど高くないけれど、大量にアウトプットすれば、アウトプット一つ当たりの単価は下がりますよね。つまり、「やすい」わけです。
担当業務に習熟していないうちなどは、質は多少目をつぶってでも、たくさん量をこなしていく。これもまた、「量」が「アウトプットの質の未熟さ」をカバーしてくれます。いろんなところに首を突っ込んで、本業とは違う仕事もちょっと手伝ってみたり。そういうことを繰り返していたりすると、「やすい」も「うまい」につながっていきます。
次に心がけるべきは「はやい」。わたしが課長クラスだった頃、社長や上司からの携帯メールには原則5分以内の返答を心がけていました。なぜなら、求められているのは、今その瞬間に必要な情報であり、それは5分後には無価値な情報となる可能性もあるからです。
情報は鮮度が命です。彼らが直接わたしに携帯メールを送ってくるのは、余程の事情があってのことと考えるのが自然です。急ぎでなければPCメールや次回顔を合わせた時でよいのですから。
初めから「うまい」は目指さなくていい
例えば、「先月の既存店前年比を教えて」というメールを16時ごろ受信したとします。わたしなら、取り急ぎ、こう返事します。
「〇月の既存店売上前年比は105.3%です」
「客数/客単価別や、立地別などの数値は5分後にメールいたします」
受け取ったメールの短さ、内容、時間などから類推して、新聞や雑誌の記者のインタビューなどを受けていたり、IR(投資家向け広報)関連などで証券アナリストから質問を受けていたりするなど、急きょ「正確な」数字を答えなければならなくなった状況が思い浮かびます。
この場合、返事に10分も時間をかけていてはその情報には価値がありません。しかも、職位を飛び越えてわざわざわたしにメールしてきたということは、「河村に聞くのが一番レスポンスが早いだろう」ととっさに判断していただいたのではないか、とわたしは受け止めました。
今思えば、わたしが上司の信頼を獲得することができたのは、こうしたことの積み重ねではないかと思います。もちろん、「うまい」=「仕事の質が高い」ことはとても重要なのですが、初めから質の高い仕事ができる人はまずいません。
「はやさ」の価値はとても大きい
このわたしのエピソードで皆さんにお伝えしたいことは、「はやさ」は大きな価値だということです。しかも、ちょっとした心がけで、誰にでも身につけやすい。
レスポンスが早い人は、上司に頼られます。上司に頼られることで、あなたのところに集まる情報量は飛躍的に増加します。そのことでまた頼られる。今度は直属の上司だけではなく、関連部門の同僚や先輩などにも頼られるようになるのです。それがまた、あなたの情報量や社内人脈を拡大していきます。こういう正のスパイラルが回っていくのです。
そうすると、単に「やすい」「はやい」だけだった強みに加えて、情報量や人脈の拡大とともに「うまい」も少しずつ手に入るようになるのです。
社外を見ていても、忙しい方ほどレスポンスが早い。早く返信しておかないと、連絡すべきことがどんどん溜まって忘れてしまうからです。レスポンスの早い方には連絡しようという気になりますよね。
逆にレスポンスの遅い人は、それだけでわたしとのコミュニケーションの優先順位が低いのかなと思ってしまい、次から連絡するのに気後れしてしまいます。社内だったら、もうこの方に直接仕事を頼むのはやめておこうとなりかねません。今すぐ「うまい」で勝負できるんだったら勝負すればいい。
でも、ほとんどの人は、初めから「うまい」で勝負できるわけではないのです。まずは「やすい」と「はやい」を意識していれば、後から「うまい」がついてきます。
河村泰貴 著/日経BP/1980円(税込み)
