高卒バイトから24歳で社員に登用され、𠮷野家ホールディングス(HD)のトップに上り詰めた河村泰貴氏。子会社のうどんチェーンはなまる時代を含め、18年間社長を務め、その間、自らの生き方や仕事術、人生哲学をつづった560通のメッセージを従業員に送り続けた。無気力で何の取りえもない若者が、どのようにして変貌を遂げたのか。そのエッセンスをまとめた新刊『自分以外のすべてがわが師』から、抜粋してお届けする。その第3回。
わたしは朝晩1日2回シャワーを浴びる習慣があるのですが、その際、左手で髪を洗いながら右手で歯磨きをするようにしています。だって、そのほうが効率的でしょう?
慣れれば誰でもできるようになります。楽器を弾くよりずっと簡単です。
実はわたし、マルチタスクが大好きなんです。マルチタスクとは、何かをしながら別のことを同時並行でやることです。
ジムでも、走りながら音楽を聴き、本を読みます。休日に、音を消してテレビで野球中継を見ながら、野球とは全く関係のないラジオ番組を聴いたりもします。

𠮷野家で身についた超マルチタスク習慣
わたしにとって、この世の中で命の次に貴重なものは「時間」です。そして、「時間」だけはすべての人に平等で「1日=24時間」です。この貴重な「時間」をできるだけ無駄にしたくない。できるだけ密度の濃いものにしたいのです。だから、「何か、同時にできることはないか?」と、常に無意識のうちに探すことが習慣化しています。
ひどい場合は、トイレに行くついでに帰りにも何かをしたいから、その「何か」が発生するまでトイレは我慢する、とか。ちょっと変な人ですね。こんな習慣、習性が身についたのも、𠮷野家の仕事のおかげ(?)です。
𠮷野家で働くようになって、カウンターを走るとき、必ず行きも帰りも何らかの作業をしてくること、しかも片手だけではなくて両手を使うことを教わりました。これを当社では「両手往復」と呼んでいます。両手に2品以上の丼を持って、お客様のところに運び、帰り道にテーブルにある空の丼を回収したり、クロスでテーブルをふいたりする。この作業を叩き込まれ、その素晴らしさに感銘しました。
それ以来、常にマルチタスキングのチャンスをうかがうような習性が身についてしまいました。
このことは、たった一度しかない人生の濃度を濃くしてくれたのではないかと思っています。だって、シャンプーと歯磨きを別々にしたら6分かかるとして、それが半分になったら3分の削減ですよ。わたしの場合、1日2回だから合計6分の削減。毎日のことだから1カ月180分。長めの映画が一本観られます。1年なら36時間。家族で一泊旅行に行けます。小さなことでも積み重ねれば大きくなるんです。
「両手往復」を意識してみよう
そして、当社の店舗を臨店(簡単に言うと店舗チェック)していて、「両手往復」が少し弱くなっているなと感じることがあります。昔と違ってすべての商品をトレーで提供するようになった影響も大きいのだと思いますが、従業員の皆さんの動きを観察していて、「あ、いま帰りに食器を下げられたのにな」とか、「クロスでテーブルを拭けたのでは」などと感じることがあります。
「両手往復」は、意識して続けていくことで習慣化します。そうなってしまえば、もはや無意識のうちに仕事や生活の生産性が高くなっていきます。はじめのうちは、「往復」を意識するだけでも全然違うと思います。お冷やのおかわりを提供しに行った帰りにただ帰ってくるのではなくて、内棚に一時置いていた食器を片づけたり、乱れたカウンターセットを整えたり、そうした小さな心がけで、移動歩数も減り、身体の疲労を減らしながら、常に客席周りを清潔に保つことができます。
当社の店舗だけでなく、皆さんの職場でも、「両手往復」で効率化できることがきっとあるはずです。わたしのように変人(?)になることはおススメしませんが、少なくとも仕事に関することについては、ぜひ「マルチタスキング」や「両手往復」を意識してみてください。
河村泰貴 著/日経BP/1980円(税込み)
