2011年の福島第1原子力発電所事故を期に停滞が続く日本の原子力エネルギー施策。他方で“夢の技術”といわれてきた核融合発電の技術革新などが急速に進んでいる。脱炭素、気温上昇の抑制、エネルギーの安定供給などの課題にどう対処すればよいのか。方策の一つとしての「核エネルギー」にフォーカスし、その“今とこれから”について、核エネルギー技術を長年取材してきた日経クロステックの専門記者2人が丹念にたどる新刊が『 核エネルギー革命2030 核融合と4種の新型原子炉がひらく脱炭素新ビジネス 』(斉藤壮司、佐藤雅哉著、日経BP)だ。その読みどころをシグマクシス常務執行役員の溝畑彰洋氏が解説する。
2023年末にアラブ首長国連邦にて開催されたCOP28(第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議)の会場で、米国・日本を含む西側諸国の20数カ国が共同で「2050年に世界の原子力発電の設備容量を2020年比で3倍に増やす」と宣言したのをご存じでしょうか。
COP28では、いわゆる「パリ協定」―COP21で採択された温度上昇を1.5℃以内に抑制するための世界的な取り組み―の進捗状況があまり芳しくないと明らかになりました。自然エネルギーのみでは「パリ協定」の達成は難しいという見方が強まる中での宣言でした。西側諸国が足踏みをしていたこの10数年に原子力開発を進めたロシア・中国へのけん制や、ロシア・ウクライナ情勢によるエネルギー安定供給不安の解決策といった側面もありました。
忘れてはならないのはこの宣言の背景に、最近の「核エネルギー技術」の急速な技術革新があることです。長年「夢の技術」と言われ続けてきた核融合発電と、旧来の原子力発電技術を改良した新型原子炉で技術革新が進み、2030年代にも一気に花開く可能性が出てきているのです。
本書はこれら2030年ごろに起こり得る「核エネルギー・ルネサンス」についてまとめた本です。
脱炭素政策の観点から原子力を見直す流れが生まれている昨今の国際情勢から、従来型の原子炉である軽水炉の改良版から核融合炉までどう進むかのロードマップ、新型原子炉や核融合の新技術やそれを扱うスタートアップ企業の解説、日本の古い原子炉の再稼働問題など、最近の「核エネルギー技術」の全体が俯瞰(ふかん)できます。さらに特許分析をベースに、各国の原子力ビジネスの動向まで読み解いています。
個人的には原発の再稼働問題と60年超運転を可能にする閣議決定の技術背景を解説した第5章を興味深く読みました。従来議論することすら避ける風潮があった話題だからです。なぜ40年を超えても運転可能なのか、どのような指標をもって安全性を確認しているかなどの疑問に答えており、国民側で正しく監視するためにも学びが多い内容が含まれています。
2011年3月11日に発生した東日本大震災および福島第1原子力発電所事故により、日本の原子力エネルギー関連施策は大きな停滞を余儀なくされました。原子力発電所は軒並み停止して安全点検に追われ、現在でも国内全60カ所の原子力発電所の中でもわずか10カ所が再稼働しているのみです。
ロシア・ウクライナ情勢は日本のエネルギー施策にも暗い影を落とし、電気の小売価格の高騰に大きな影響を与えています。再稼働した原子力発電所が多い関西や九州の電気代が安いことは事実ですが、稼働を停止している全国の原子力発電所を再稼働すれば電気代を安くできるというほど話は簡単ではありません。福島の事故を契機に策定された新規制の安全基準に適合させるためのコストが、電気代に上乗せされるからです。
日本国内が電気の供給量・価格のコントロールに苦しんでいる一方で世界では、気温上昇と経済成長、AI(人工知能)によってエネルギー消費が跳ね上がっています。国際エネルギー機関(IEA)は2024年の世界の電力需要が、この20年ほどで最も急速に増加するとの見通しを明らかにしています。まさに八方塞がりの状態です。
本書を読み終えてリアリティーのある脱炭素政策として原子力の有用性が世界的に再認識されている流れを実感しました。日本のエネルギー政策にも、エネルギー安全保障を含めたバランスの良いエネルギーミックスが求められています。太陽光や風力発電以外にも脱炭素によるビジネスチャンスが広がっており、日本発のスタートアップが核融合・新型原子炉の分野でも誕生していることに希望を持ちました。技術的に難易度の高い核エネルギーの未来を理解し、原子力の重要性、グローバルトレンドを理解したいと思う読者には最適な本です。
