パナソニック コネクトグループは、最新テクノロジーを駆使してBtoBソリューションを提供するパナソニックグループの中核企業群の1つです。同社の榊原彰CTO(最高技術責任者)は、企業文化や組織を変革するために、半年に一度、計8回、課題図書を設定した「オフサイトミーティング」を行ったといいます。榊原さんに、組織変革を実現するためにどのような本を取り上げたのか、聞きました。今回は後半の4冊について。

新組織に転換するために読んだ本

 前回までで説明した通り、当社のシニアマネージャー以上が参加する「オフサイトミーティング」では、事前に課題図書を読み、「どうすれば社内の課題を解決できるか」をディスカッションします。2022年5月からスタートし、2025年11月までに8回行いました。前回は前半の4冊を説明したので、今回は残りの4冊を紹介します。

 オフサイトミーティングでは1回目からパナソニック コネクトの組織改革について話し合ってきましたが、2024年4月、研究開発部門に新たにプロダクトを扱う組織を追加することになりました。そのため、プロダクトの販売によって成果を出し続ける組織への変革を迫られます。そこで、5回目の課題図書として選んだのが、『 EMPOWERED 普通のチームが並外れた製品を生み出すプロダクトリーダーシップ 』(マーティ・ケーガン、クリス・ジョーンズ著/二木夢子訳/日本能率協会マネジメントセンター)です。

『EMPOWERED 普通のチームが並外れた製品を生み出すプロダクトリーダーシップ』(マーティ・ケーガン、クリス・ジョーンズ著)
『EMPOWERED 普通のチームが並外れた製品を生み出すプロダクトリーダーシップ』(マーティ・ケーガン、クリス・ジョーンズ著)

 新たな組織は「SaaSビジネスユニット」と言い、我々が開発したSaaSプロダクトを作り、売る部署です。歴史的に見ると、パナソニックのプロダクトといえばハードウエア。ハードウエアは販売後に不具合があるとリコールになるため、出荷前には徹底的に品質をチェックし、慎重に慎重を期して、抜け・漏れがないようにしなくてはいけません。

 しかし、SaaS(インターネットを通じてサービスを提供すること)で同じやり方をしていると、時間がかかりすぎて世の中のニーズが変わってしまう。もちろん品質は重要ですが、100%の品質になるまで市場に出さないということはできません。小規模にリリースして、市場の反応をもらって機能を拡張したり、バグを修正したりするほうが現実的です。これをアジャイル開発と呼びます。

 まずは、SaaSビジネスユニットにプロダクトマネージャーを置くことにしました。商品企画からマーケティング、商品機能の優先順位づけなど、プロダクトのすべてに関する責任者です。そしてプロダクトマネージャーが、「このプロダクトは10年間、商売をする。1年目でこの機能をリリースする。そのためにプロジェクトを立ち上げる」などと決めるようにしました。開発する機能に応じてプロジェクトが立ち上がり、メンバーがアサインされるという組織構造をつくるようにしたのです。

 そこで、まずは「プロダクトマネジメントとはどういうものか」をシニアマネージャーに理解してもらう必要があり、『EMPOWERED』を課題図書にしました。この本では、Amazon、Apple、Googleといった企業がイノベーションを起こし続けられるのは、優秀な人材を採用しているからではなく、社員が協力して困難な課題を解決するからだと説明されています。本書を読むことが、良いシミュレーション、ロールプレイングとなった1冊です。

榊原 彰
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榊原 彰(さかきばら・あきら)
パナソニック コネクトグループ シニア・ヴァイス・プレジデント CTO
パナソニック ホールディングス 執行役員グループCAIO

1986年、日本アイ・ビー・エムに入社、以降2015年末に同社を退職するまでに技術職が体験可能な大多数の職種を経験、グローバル技術職のトップであるIBMディスティングイッシュトエンジニアに認定され、IBMグローバルサービス事業CTO、スマーターシティ事業CTOを歴任。16年より、日本マイクロソフトに入社、執行役員CTO。18年からはマイクロソフト ディベロップメントの代表取締役社長も兼務。21年10月末に両社を退職。21年11月、パナソニックに入社し、同社社内カンパニーであるパナソニック コネクティッドソリューションズ社にて執行役員常務CTO。22年4月より、同社のホールディングス制移行に伴い、パナソニック コネクトにて執行役員ヴァイス・プレジデントCTO、23年4月より執行役員シニア・ヴァイス・プレジデントCTOとして同社の研究開発組織をリード。26年4月、パナソニック ホールディングスの執行役員グループCAIOに就任し、パナソニック コネクトグループCTOと兼務。

新規事業を開拓する人になるために

 その半年後のオフサイトミーティング6回目で選んだ課題図書は『 コーポレート・エクスプローラー 新規事業の探索と組織変革をリードし、「両利きの経営」を実現する4つの原則 』(アンドリュー・J・M・ビンズ、チャールズ・A・オライリー、マイケル・L・タッシュマン著/加藤今日子訳/英治出版)でした。この本は8冊の課題図書の中でも、みなさんに特にお薦めしたい1冊です。

『コーポレート・エクスプローラー 新規事業の探索と組織変革をリードし、「両利きの経営」を実現する4つの原則』(アンドリュー・J・M・ビンズ、チャールズ・A・オライリー、マイケル・L・タッシュマン著)
『コーポレート・エクスプローラー 新規事業の探索と組織変革をリードし、「両利きの経営」を実現する4つの原則』(アンドリュー・J・M・ビンズ、チャールズ・A・オライリー、マイケル・L・タッシュマン著)

 先ほど紹介したSaaSビジネスユニットの設立に先駆けて、ソフトウエア基盤を提供するための「クラウドエンジニアリングセンター」をつくっていましたが、実際に始動してみると、研究開発からプロダクトまでの距離がまだまだ遠い。そこで、研究開発部門の組織そのものを変える必要があると思い、「コアテクノロジー」という基礎技術の研究を行い新しいテクノロジーを生み出すためのチームを設置しました。それまで「研究」と「開発」が混然一体としていたのを整理して、「研究ばかりしていてモノが出てこない」のではなく、「ちゃんとモノづくりをしてリリースする」体制を整えました。

 しかし、まだ開発とプロダクトまでが遠いため、コアテクノロジーから実用的なテクノロジーを開発する「ソリューションディベロップメント」、顧客と連携する「エンビジョニング」というチームもつくりました。顧客にサービスの改善点を聞き出し、高速でプロトタイプを回してプロダクト開発ができるようにし、全体を「テクノロジープロダクトライン(TPL)」という統括組織として見るようにしたのです。

 この際、「そもそも新規事業とは」「組織変革とはどういうことか」を強く意識してもらうために読んでもらったのが、『コーポレート・エクスプローラー』だったのです。

 コーポレート・エクスプローラーとは、新しいビジネスを切り開いていく人たちのこと。既存事業を強化しつつ(深化)新規事業を開拓する(探索)「両利きの経営」の考え方に基づき、どう立ち回ればコーポレート・エクスプローラーが既存事業部門からの反発を受けずに新規事業を開拓できるか、また、既存事業部門から協力を得て事業として成立させていけるかについて説明されています。

 オフサイトミーティングでは、「君たちこそコーポレート・エクスプローラー。社内でどう振る舞えばいい?」と問いかけ、全員でディスカッションしました。

「『ちゃんとモノづくりをしてリリースする』体制を整えました」
「『ちゃんとモノづくりをしてリリースする』体制を整えました」
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課題図書のおかげでKPIを着実にクリア

 『コーポレート・エクスプローラー』以降はいかにプロダクトマネジメントや組織の目的を遂行していくか、という段階に入りました。

 そこで、オフサイトミーティング7回目の課題図書は『リアライン ディスラプションを超える戦略と組織の再構築』(ジョナサン・トレバー著/池上重輔監訳/安藤貴子、NTTデータ経営研究所Re:Align研究チーム訳/東洋経済新報社)を選びました。この本には、事業戦略や組織の体制を「リアライン(再構築)」することの重要性と具体的な解決策が紹介されています。そもそも事業戦略と実際にやろうとしていることに整合性があるかどうかも説明されており、我々も原点に立ち返るきっかけになりました。

『リアライン ディスラプションを超える戦略と組織の再構築』(ジョナサン・トレバー著)
『リアライン ディスラプションを超える戦略と組織の再構築』(ジョナサン・トレバー著)
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 そして、8回目は『 ワイドレンズ イノベーションを成功に導くエコシステム戦略 』(ロン・アドナー著/清水勝彦監訳/東洋経済新報社)を選びました。この本が面白いのは、「いい製品なのに、なぜ売れないのか」を多数の事例を分析して解説していることです。我々もいいプロダクトを作っているはずなのに、売り上げは急激に伸びません。それはなぜなのかを考えさせられました。

『ワイドレンズ イノベーションを成功に導くエコシステム戦略』(ロン・アドナー著)
『ワイドレンズ イノベーションを成功に導くエコシステム戦略』(ロン・アドナー著)

 研究開発の成果はROI(投資収益率)で計測することがなかなか難しいため、「この技術を開発するには国際学会で○本の論文を発表する必要がある」「特許を○本出さないと競合企業に対して優位性が保てない」といったKPI(重要業績評価指標)を定めています。8回のオフサイトミーティングと課題図書のおかげで、KPIは着実にクリアできるようになってきました。

 これまでは半年に一度、オフサイトミーティングを開催してきましたが、今後はどのような形に発展させていくか、じっくり考えたいと思います。

取材・文/三浦香代子 写真/品田裕美