私たちは、いつまでも健康で、若くいられるためには何を食べ、どんな生活を心がければいいでしょうか? オートファジーの専門家である大阪大学名誉教授の吉森保先生は、良い食品の代表例としてスペルミジンを含む納豆やみそ、しょうゆ、キノコ類、チーズ、ウロリチンを含むザクロ、レスベラトロールを含む赤ワインなどを挙げます。また、徳島の阿波晩茶には、健康を保つだけでなく、若返りを促進する可能性もあると言います。最先端の老化の研究をわかりやすく紹介する新刊、『私たちは意外に近いうちに老いなくなる』(日経BP)から本文を抜粋、解説します。
1回目
人間は近いうちに老いなくなる? 老化と認知症防ぐ切り札「オートファジー」
2回目
若返りのはずが老化促進のリスクも 「エクソソーム美容」に潜む落とし穴
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オートファジーを高めて老化を防ごう
「オートファジー」という言葉、聞いたことがありますか? 私たちの体の細胞が自分自身の中の一部の成分を食べて(分解して)、それをまた新しく再利用するための材料にしなおすというしくみです(詳しくは 第1回 を参照)。
これは、細胞を健康に保つための機能ですが、生命科学の最前線ではオートファジーを活性化させるメカニズムの研究やそれにもとづく創薬の開発が進んでいますが、実用化まではまだ時間がかかるのが現実です。ただ、医療に頼らなくてもオートファジーを活性化させる可能性のある方法は日常生活でいくつもあります。
まず、食事を工夫しましょう。オートファジーを活性化する食品成分はいくつか見つかっており、代表例が納豆やみそ、しょうゆ、キノコ類、チーズに含まれるスペルミジンです。
ですから、伝統的な和食がオートファジーには効果的な可能性が高いです。
また、ザクロに含まれるウロリチンや赤ワインに含まれるレスベラトロールもオートファジーを活性化します。一方、唐揚げなど、脂肪分を食べ過ぎると、ルビコンが増えてオートファジーの働きが悪くなり、脂肪肝になってしまいます。
阿波晩茶には「若返り」の効果まである?
私たちが注目しているのが、阿波晩茶です。 阿波晩茶は徳島県で千年以上前から親しまれている伝統的な発酵茶です。
私たちの研究グループは全国各地、北海道から沖縄まで500種類以上のその地域で昔から健康に良いとされてきた食品を調査した結果、阿波晩茶がオートファジーを特に活性化させる効果を持つことを発見しました。
阿波晩茶の濃縮エキスが単なる老化の抑制を超えて、実際の「若返り」効果を持つ可能性が明らかになってきたのです。老化の「抑制」と「若返り」には重要な違いがあります。老化の抑制とは加齢による変化を遅らせることですが、若返りはすでに起きた変化を元に戻すことを意味します。
阿波晩茶による若返り効果を示す興味深い実験結果があります。線虫は加齢とともに運動量が低下しますが、年老いた線虫に阿波晩茶の濃縮エキスを与えたところ、若い頃のように活発に動き回るようになったのです。これは明らかな若返り現象です。
この結果は、私たちが以前に行ったルビコン(オートファジーを抑制する物質、詳しくは 第1回 を参照)を除去した線虫の実験とは本質的に異なります。ルビコンを持たない線虫は、年をとってもオートファジーが低下せず活発に動き続けますが、これは老化の「抑制」です。
一方、阿波晩茶の場合は、すでに老化した線虫を「若返らせる」効果があったのです。しかし、お茶として飲むだけでは有効成分の濃度が薄く、十分な効果を得ることが難しいという課題がありますので、サプリを試すなどもよいでしょう。
同様の若返り効果は、スペルミジンという物質でも確認されています。高齢者の免疫細胞は抗体をつくる能力が低下していますが、スペルミジンをその細胞に直接投与するとオートファジーが活性化し、再び抗体をつくれるようになります。
これらの発見は、加齢によるオートファジーの低下と、それによる老化が不可逆的ではないことを示しています。つまり、適切な方法でオートファジーを再活性化すれば、加齢による体の変化をある程度元に戻せる可能性があるのです。
運動、冷水浴、「人とのつながり」は老化を抑える効果があるかも
適度な運動も有効です。最近は筋トレがブームですが、オートファジーには有酸素運動が有効です。有酸素運動のランニングでオートファジーが活性化され、糖尿病になりにくくなったというマウスの実験が米国で報告されています。
反対に、筋トレでは筋肉中のエムトールという酵素が活性化して、オートファジーを抑制してしまいます。睡眠もオートファジーと関係があることが最近わかっています。
しっかりとした睡眠時間(7~8時間)を確保し、夕食は寝る2~3時間前までにすませ、体内時計(サーカディアンリズム)に合わせて、毎日同じ時間に寝起きするなどを心がけましょう。
オートファジーと生活習慣については興味深い研究結果が次々と報告されています。最近、カナダの研究チームから冷水浴がオートファジーを活性化するという論文が発表されました。寒冷刺激が細胞レベルでのストレス応答を引き起こし、それがオートファジーの活性化につながる可能性が示唆されています。
一方で、精神的なストレスはオートファジーを抑制することも報告されています。また、人とのつながりが希薄になるとオートファジーの機能が低下するという研究結果も出ています。社会的な孤立が体の細胞レベルにまで影響を与える可能性があるということです。
ただし、これらの研究はまだ初期段階にあり、より詳細な検証が必要です。今後の研究により、日常生活の中でオートファジーを活性化する具体的な方法がさらに明らかになることが期待されます。
吉森 保著/日経BP/1980円(税込み)

