「AI(人工知能)で業務を効率化だ!」「メタバースで新サービスを立ち上げよう!」「コンサルに依頼したのに生産ラインがぐちゃぐちゃだ!」――いまだに、こんなことは起きていませんか? 組織や個人にとって有用な技術を理解し、そして活用するために、知っておきたい知識をまとめました。第4回のテーマは、2025年1月に大学入学共通テストで初めて出題された「情報Ⅰ」で何が問われているのかを読み解きます。

「情報Ⅰ」試験は意外と簡単だった?

 初めての「情報Ⅰ」試験が終わりました。そこで大人が知っておくべきは「情報」のごった煮感です。

 関係者の受け止め方は、「おおむね予想通り」だと思います。

 予想通りというのは、

  • 大学入試センターとしての矜持(きょうじ)もあるし、サンプル問題は難しめに作るだろう(本番はサンプルより易しいだろう)
  • 特に1回目は初回受験生を過度に不利な立場に置かないために、易化させるだろう
  • 出題者も受験生も予備校も慣れてきたら、徐々に難化させるだろう

ということです。

 ただ、一口に「易しい」といっても色々な種類があるので、今回はそれを検討してみたいと思います。以降、本試験問題より引用し解説します。

大問1は知識問題

 以下は大問1の問1です。出題者にとっては軽い挨拶みたいなもので、その試験の方向性を受験者に知らしめる効果があります。ちなみに「情報Ⅰ」は全問必答で、情報処理推進機構(IPA)が実施する情報処理技術者試験のように「苦手分野をパスする」ことはできません。

大問1 問1
大問1 問1
出典:令和7年度大学入学共通テスト「情報Ⅰ」(大学入試センター、以降同様)
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 さて、これは知識問題ですね。

  • 暗号……盗聴対策
  • デジタル署名……暗号技術を応用して作られ、なりすまし、改ざん、事後否認対策

 以上の知識が身に付いていれば、解答できる問題です。

大問1 問2
大問1 問2
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 IPはインターネットの通信プロトコルで、インターネットの根幹を成す規約です。これに従って各機器や各サービスが作られているから、世界中をあまねくつなぐことができるわけです。

 1990年代以降のインターネット普及期に使われたのはIPv4(バージョン4)で、今でも現役ですが、さすがに時代にそぐわない点も目立ってきたので、IPv6への移行が徐々に進んでいます。

 IPv6の新しい点、優れている点は色々ありますが、「情報Ⅰ」の水準でまず知っておくべきなのは、「アドレス数が足りなくなったので、アドレス空間を拡大した」ことです。

 これはかつて「電話番号が足りなくなったので、10桁から11桁に増やそう」としたのといっしょです。IPv4の2進数32桁に対して、IPv6のアドレスは2進数128桁に拡大しています。

 どちらの問題も、「とても素直な出題」だと言えます。連載第1回 「大学入学共通テスト『情報Ⅰ』って何が問われるんでしょうか?」 でもお話ししましたが、共通テストのような試験では、あまり奇をてらった出題はできません。まっとうに努力した受験生がまっとうな点数をたたき出せなければ、不公平のそしりを受けるでしょう。

 そこで、「『1、2冊の教科書にしか載っていない用語』などは出題しにくい」と予想したわけですが、その中でも特に保守的な王道ど真ん中の出題だったと思います。

 少なくとも、「思いもよらない出題をしやがって」という批判はまったく出ないはずです。総じると、予測通り「『多くの教科書に載ってる用語』を数えていくと200以下に収ま」りました。その200用語を覚えておくだけで、知識問題には問題なく対応できました。

 続いて大問の2も見てみましょう。

大人が戸惑う大問2

大問2-1
大問2-1
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大問2-2
大問2-2
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 この辺は一工夫されているところです。

 共通テストが背負っているミッションとして、「思考力を問う」(丸暗記のような剥落学力では解けない問題にする)があります。

 ルータって何? クライアント/サーバって何? のような知識を問う問題ではなくて、何が最も正答としてふさわしいのか、与えられた条件のなかで考察を尽くすタイプの設問です。大問2はそこに果敢にチャレンジしていますね。

 大人が「情報Ⅰ」と聞いて、最も違和感を覚えるタイプの設問かもしれません。「情報Ⅰ」とはコンピュータの試験ではないのか? と。

 いわゆる情報処理運用能力や、情報処理関連法令、データサイエンスの範囲を含んで「情報Ⅰ」なのだと理解しておくとよいと思います。

空欄ア…「時間帯ごとの総売上額」が欲しいんです。そのうち、「購入時刻」はすでに与えられているので、あとは「⑤購入した商品の合計金額」があれば、「時間帯ごとの総売上額」を求められます。

空欄イ、ウ(順不同)…こちらは、「曜日別の各商品の購買の状況」が把握したいとなっています。「購入日、曜日」はすでに与えられていますから、他に何が必要でしょうか? 「各商品」なので、どんな商品が売れたか分からないといけません。「③商品コード、購入商品名」は欲しいところです。

 あとは? どれだけ売れたか知りたいですよね。④購入した商品の個数、⑤購入した商品の合計金額、⑥購入した商品の個数の合計、あたりで迷うかもしれませんが、問われているのが「各商品」であることを思い出してください。「合計」じゃダメなんです。したがって、「④購入した商品の個数」が正答です。

 設問の条件をよく読み、筋道立てて考えていけば解答できるので、「国語の問題みたい」と揶揄(やゆ)される所以(ゆえん)にもなっています。

 しかし、目的を達成するためにどんな情報が必要なのか、コンピュータは何をキーに情報を突き合わせるのかが理解できていないと、解答に迷ったり、長い時間がかかったりすることもあるでしょう。よく考えられた良問だと思います。

 一つ怖いのは、情報処理技術者試験にもよく見られるように、前の問題が後の問題のヒントになっていることです。この種の設問は1つコケると後続も全部コケる可能性があるので、注意しないといけません。問1や空欄アだから簡単だろうとなめてかかると、後悔することがあります。

 大問3でいよいよプログラミングが登場します。

プログラミングだけど国語っぽい? 大問3

大問3-1
大問3-1
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 大問3は問1~3で構成されていて、問1は与えられた問題文から、どんなプログラムを作ればよいか、条件を読み取る設問でした。これも、「国語の問題」と見る向きがありますが、ある文章から仕事に必要な要件を読み取るのは、その仕事(この場合は情報処理、プログラミング)への一定の理解がないと困難もしくは解答に長い時間がかかるので、これも「情報Ⅰ」の出題としてよく練られていたと思います。実際に受験生が将来、情報処理の仕事に就くことがあれば、この問1部分の能力はたいへん重要になります。

 とはいえ、問1の解説をしても退屈に感じる方が多いでしょうから、ここでは問2を見てみます。配列の知識を問う設問です。ここも、プログラミングの参考書が10冊あれば、必ず10冊に載っている内容ですから、オーソドックスな基礎力を問う姿勢が徹底しています。

 部員の(作業の)空き状態を管理したいので、Akibiという変数を作るのですが、部員が複数なのでシンプルな変数ではなく配列を利用しています。

部員 その状態を格納する配列 配列に格納されるデータ
(次に空く日付)
部員1 Akibi[1] 5
部員2 Akibi[2] 3
部員3 Akibi[3] 4

 部員、その部員に割り当てられた配列、配列に格納されるべきデータは懇切丁寧に文章、チャート、例示で与えられるので、落ち着いて読み解けば必ず正答にたどり着けるようになっています。

 空欄カは、部員3の次の空き日が入る箇所ですので、図1から4であることが確定します。また、すでに問1で答えている内容ではありますが、空欄ウも配列の最小の要素(それぞれ5、3、4が格納されている)なので、この箇所だけでも2であることが分かります。部員2の手が最初(3日目)に空くわけです。

 迷う要素があるとしたら、プログラミングに慣れた生徒さんが、「Akibiなんて変数の命名規則としてどうなのか」「添字って0から始まるのが一般的ではないのか」といぶかしむくらいでしょうか。

 確かにサンプル問題では添字が0から始まっていたので、戸惑った受験生もいたかもしれません。ただ、その場合、このような対応になって部員番号と添字がずれます。

部員 その状態を格納する配列 配列に格納されるデータ
(次に空く日付)
部員1 Akibi[0] 5
部員2 Akibi[1] 3
部員3 Akibi[2] 4

 変数名がさえないのも、ケアレスミスで得点差をつけたいわけではない、受験生への配慮と考えられます。問題をよく読めば、こうした戸惑いは解消できたはずなので、先入観にとらわれず目の前にあるドキュメントから必要な情報を抽出する姿勢を要求する試験と言えます。

大問3-2
大問3-2
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 空欄キはどうでしょうか。
 これは問題文で示されているように、「次に割り当てる工芸品の担当部員を表示する」プログラムです。換言すれば、部員が3人いるなかで、誰が最短で手が空くかを決定すればよいわけです。

 手の空く日付は配列Akibiに格納されていますから、その中から最小の数値を見いだせばOKです。

 そのための変数が2つ用意されていて、初期状態で下記の値が代入されています。

  • tantou= 1 (誰が担当者かを最終的に決定する変数。仮に部員1が入っている)
  • buin = 2からbuinsu(部員数:3が代入されている)まで増える。比較のために使う

 となると、初期状態でAkibi[buin]とAkibi[tantou]は、
 Akibi[2]  Akibi[1] を比較していることになります。部員1の空き日(5日)と部員2の空き日(3日)の比較ですね。

 つまり、部員1の空き日が小さければそのままにしておけばいいですし、部員2の空き日が小さいなら、
 tantou = buin (空欄キの次の行で行っている処理です。担当者を仮の部員1から部員2に変更します)

 として、担当者を部員2に変更すればよいことになります。

 であれば、空欄キに入るべきは、「部員1より部員2の空き日が小さかった」ケースなので、1が正答です。

 ちなみに、空欄クの処理ですが、以下のように進みます。

  • 5と6の比較 部員1の方が小さいので代入(部員の変更)はなし
  • 5と4の比較 部員3の方が小さいので代入が発生
  • 4と4の比較 部員3と部員4が同じなので、代入はなし
  • 4と4の比較 部員3と部員5が同じなので、代入はなし

 したがって、代入の回数は1回です。担当者は部員3に決定します。

 総じて、難易度はやや低めです。多くの大人が想像する「情報Ⅰ」の内容に最も近いと思われますが、期待された水準からするともう少し難易度は上げるべきでしょうし、今後そうしてくると思います。初回試験の綾(あや)がもっとも表出した出題だと考えます。

 プログラミングに苦手意識を持っていた人は、出題数の少なさに安堵したかもしれませんが、次回以降は難化が予想されるので油断は禁物です。

 一方でプログラミングスキルのあった人は、(サンプル問題の時点で分かっていたこととはいえ)それだけで黙っていても高得点が取れる試験ではないことが明らかになりましたので、データサイエンスや論理的思考力、読解能力、情報技術全般の知識を底上げしていきましょう。

 業務知識はあるに越したことはありませんが、委員会活動や部活の運営などに関わっていればさほど苦労することはないはずです。

大問4はデータサイエンス系

 最後に大問4の問1を解いてみましょう。
 これはデータサイエンス系の出題です。政府も注力していますし、この分野の人材不足が叫ばれてもいます。少なくとも今後数年間、重きを置かれることはあっても出題が減ることはない分野だと考えてください。

大問4-1
大問4-1
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大問4-2
大問4-2
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 空欄ア、イは国語力だけでは解けない設問です。ただ、授業をきちんと履修した生徒さんであれば、どの教科書にもゴシック体でぐりぐり明記されている内容ですから、得点は容易であったと思います。尺度水準(名義尺度、順序尺度、間隔尺度、比例尺度)を弁別できるかどうかを問う設問です。

 アは名義尺度です。対象を見分ける機能しか有していません。「郵便番号などと同じで」がヒントになっています。

 イは比例尺度です。旅行者数ですから、数値の大小にも、数値の間隔にも、数値の乗算・除算にも意味があります。0に特別な意味があることも特徴的です。

 空欄ウ、エは図1のグラフから何が読み取れるかを問うたもので、これも近年の高校、大学が重視しているスキルですが、社会人から見れば児戯に等しい出題水準だったかもしれません。順不同で0、2が正答です。

 これも「情報」と聞いてすぐに連想する出題ではないかもしれません。履修済みの人ほど、これは算数か統計の話では? という印象を抱きます。高校生ではないけれども、興味を持って今回初めて問題を眺めてみた方は、驚かれたかもしれません。

 しかし、これが現在高校生が習っている「情報Ⅰ」の内容です。悪く言えば、新しいものをいろいろ放り込んだごった煮、ポジティブに捉えればマニアックにならない範囲で情報技術・知識の要所を押さえつつ、社会人基礎力もつけてみました、といったシラバスになっています。

 私自身はけっこう好意的に捉えていますが、この教育が成功だったかどうかは歴史の審判を待つ必要があるでしょう。

大学入学共通テストで初めて「情報Ⅰ」の試験が行われた(写真はイメージ)(写真:smolaw11/stock.adobe.com)
大学入学共通テストで初めて「情報Ⅰ」の試験が行われた(写真はイメージ)(写真:smolaw11/stock.adobe.com)
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