「SNS本」の著者である増岡宏紀氏、飯髙悠太氏、そして「カテゴリー戦略本」の著者である田岡凌氏による鼎談の後編。カテゴリー戦略と聞くと、トップによる大掛かりな戦略策定をイメージするかもしれないが、その視点は現場のマーケターが日々行う仮説の構築にも役立つ。今回はWho・What・Howの見つけ方、中でも多くのマーケターに見落とされがちな「Who」の攻略について、実務で使える考え方をお届けする。[日経クロストレンド 2026年2月5日付の記事を転載]

写真左からホットリンクの増岡宏紀氏、GiftX代表取締役の飯髙悠太氏、suswork代表取締役の田岡凌氏
写真左からホットリンクの増岡宏紀氏、GiftX代表取締役の飯髙悠太氏、suswork代表取締役の田岡凌氏
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Who・What・Howは「3点セット」で考える

増岡宏紀氏(以下、増岡) SNSマーケティングについて問題提起したいことの一つに、戦略が抜け落ちてしまっているという点があります。特に問題なのが、「Who(誰に)」が置き去りになったまま、施策が実行されるケースが多いことだと思います。この点について、お二人はどのように考えていますか。

飯髙悠太氏(以下、飯髙) 企業活動は売り上げを上げて利益を出すことが一番の目標ですが、これがマーケティングの話になると「コンバージョンレート」のように細分化して捉えられてしまいがちです。その結果、追うべき指標にとらわれ、Whoが抜け落ちてしまうのです。これは、SNSに限らず「リスティングならどれくらい獲得できるだろう」というように、「How(手段)」だけ考えても実行できてしまうということが背景にあると思います。

 デジタルの中でやれることが多くなり過ぎて、担当も細分化されて、リスティング、SNSというように分けられてしまうと、その枠の中で目標が設定されてしまう。本当はさらに上段があるんですけど、枠の部分の最適化をみんな頑張ってしまい、全体を見られる人が少なくなっています。

『僕らはSNSでモノを買う』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者・飯髙氏。元ホットリンクの執行役員CMOでもある
『僕らはSNSでモノを買う』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者・飯髙氏。元ホットリンクの執行役員CMOでもある
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田岡凌氏(以下、田岡) お客さまサイドもどんどん多様になっていますよね。増岡さんが「SNSは今やレコメンドメディアだ」と述べられているように、見ているもの、触れている情報がみんな異なります。

増岡 昔は学校に行くと、みんなが「“めちゃイケ”見た?」といった話をしていたのが、現在はそれぞれが全く違うコンテンツを見ています。さらに主要なSNSだけでも5種類以上あるわけですから、マスマーケティングの全盛期と比べると、相当複雑になっています。

増岡氏は著書で、活発に動いている既存のコミュニティにお邪魔する=「巨人の肩」に乗ることで、自然に認知を獲得し、ユーザーの発話を生み出す手法について解説
増岡氏は著書で、活発に動いている既存のコミュニティにお邪魔する=「巨人の肩」に乗ることで、自然に認知を獲得し、ユーザーの発話を生み出す手法について解説
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田岡 企業のマーケティング活動も分断されて、顧客も多様になっているという状況で、マーケターはWho、What(何を)、Howを見つけに行かないといけない。しかも、Whoだけ、Whatだけを見つけてもあまり意味がなく、3つ全部がはまるセットを同時に見つけないと機能しないわけです。

 なぜならお客さまは、Whoです、Whatです、Howです、と順番にアプローチするわけではなく、Who、What、Howを同時に体験するからです。「SNSで〇〇さんがこのシャンプーについてこんなこと言ってた。良さそう、買おう」という一連の心の動きが、同時に起こるんです。

 これをマーケターはつい分解して、一つずつ詰めていこうとしますが、お客さまの側はそういうふうにはなっていない。だからこそ、同時に見つけに行かなければいけないのです。

 これを見つけるためには、「N=1」といわれるように1人の顧客とじっくり向き合い、深い課題や、生活者として何に心を動かされたのかという質的なものを、きちんと見ていく必要があります。一方で、時にはHowから見つかるWhoやWhatもあるので、両方向からアジャイルに回していくのがいいと思います。

考えるより現場でファクトを見つけるのが近道

増岡 Who、What、Howの3点セットの話はまさにそうなのですが、「これだ!」と思うものを見つけても言語化するのが難しく、上層部の理解を得られるだろうか、という問題があったりしますよね。何かコツはありますか。

田岡 複雑にしか言語化できないものは、そもそも顧客思考ではないと思います。複雑なコンセプトやストーリーを説明されても、お客さまは聞いていられません。私たちはシンプルなものしか認識できないし、なんとなくモノを買っているわけです。

 同じように、組織を動かそうとする場合も、極力話をシンプルにする必要があります。そう考えると、結局のところファクトで証明するしかないわけです。まずは「実際にこういうお客さまがたくさん買っていました」「こんな発話が購買につながっていました」といった、現場ではまるWho、What、Howの“ファクト”を見つけていく。そして、これを10倍、100倍にできるのか、どうすればできるのか、ということを言えばいいのです。

 戦略的にWho、What、Howの仮説をつくり込んで「よしやろう」と考えるだけでなく、顧客の行動を観察して「今ここで火がおこっているから、これを100倍にしよう」とも考える。もちろん戦略としてはアロケーション(配分)も大事なのですが、同時に「火のおこしどころ」を見つけて、その火を大きくしていくという姿勢が、これからの時代、求められていると思います。

田岡氏。著書『急成長企業だけが実践するカテゴリー戦略』(クロスメディア・パブリッシング)は「実務者が選ぶマーケティング本大賞2025」で大賞を獲得
田岡氏。著書『急成長企業だけが実践するカテゴリー戦略』(クロスメディア・パブリッシング)は「実務者が選ぶマーケティング本大賞2025」で大賞を獲得
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飯髙 本来マーケティングの担当者も、生活の中では1人のユーザーとして行動をしている。それなのにマーケティングを行うとなると、急にユーザー行動を無視しているケースが多く、会社側の都合で考えてしまう。

 その意味で、本当にユーザーと向き合っている企業は意外に少ないのだと思います。仕事になると、途端に「こんなコピー出せばいいんでしょ?」みたいになるけど、言っている本人がそんなふうに買ってはいないことがとても多い。とにかく競合がやっているのと同じようにやろうとして、結果的に違う人を口説くのに同じ口説き方している、となっている。

Whoの攻略を助ける、コミュニティとカテゴリーの発想

増岡 Who、What、Howの中でも、比較的多くのマーケターが苦手としているのが「Who」、どこを狙うのかの解像度だと思います。そして田岡さんの著書『急成長企業だけが実践するカテゴリー戦略』でも、私の本でも、視点の持ち方に少し違いがあるものの、Whoの話をメインにしています。

 私の理解では、自社ブランドがナンバーワンになれるカテゴリーを新しく生み出そうというのが、田岡さんが解説されていたカテゴリー戦略です。カテゴリーに名前を付けるのもとても大切なことで、なかなかそれができていないブランドも多いと思います。

 一方で、私が提案するコミュニティマーケティングは、「業界の他ブランドが取れていないWhoを見つけ出し、そのコミュニティに働きかけることで一点突破しよう」というものです。そのためカテゴリー戦略の一部分というか、もう少し狭い話をしているのかなと思っていました。

田岡 私の本では分かりやすさやキャッチーさを重視して、カテゴリー創造の事例が中心になったのですが、実際は、カテゴリーの裾野を広げる発想はあらゆる企業に求められるカテゴリー戦略だと思います。

 例えば「コーヒー」というカテゴリーでは、カフェインを摂取できない妊婦や授乳中のオケージョン(状況)に加え、カフェインマネジメントという考え方も生まれており、カフェインレスの多様なニーズが増えています。「メガブランドはそのオケージョンを取れていないから、さらにカフェインレスの別ブランドを投入し、カテゴリーを成長させていこう」という動きが取れたなら、それは「コーヒー」という親カテゴリーのカテゴリーを拡大しながら、新しいカテゴリーを創造しているわけです。Whoを絞っているとも言えますし、カテゴリーをつくっているとも言えるし、拡大しているとも言える。

 新しく名前を付けたカテゴリーがある程度のサイズになり、言葉が一般化することで、初めて「カテゴリーを創造した」と言えるわけですが、結局やっていることは一緒なんです。お客さまのまだ満たされていないニーズや隠れた課題を見つけて解決し、時に分かりやすいキーワードとか名前とかを付けてあげることで、結果的にマーケットを広げていく。

 名前を付けると同時に、直感的に伝わるイメージをつくるというのも必要です。多くの会社は価値をそのまま伝えようとするのですが、それだと伝わるのに数秒かかるんですね。どんな感じなのか、1秒で見たら分かるものが強い。

 そのいい例が、オーストラリアの新興企業が開発したデザインソフトの「Canva(キャンバ)」です。Canvaの価値は、テンプレートがあるから誰でもプロ級のデザインが作れる点なのですが、サイトに行ったらポスター、プレゼン、チラシなどテンプレートが大量に出てくるんです。見れば1秒で「誰でもプロ級のデザインがつくれる」価値が分かります。

 伸び悩んでいる会社は、大体ここに問題があります。「シンプルで直感的で、1秒で伝わる価値のキーワードとイメージをつくっていく」という研ぎ澄まし方が、まさにカテゴリー戦略の本質だと思っています。しかもその価値が、自社だけでなく競合やパートナーも語れるものである、というのがポイントです。

増岡 言葉だけでなくプロダクトも「価値を伝えられる姿」になっていなければいけないというわけですね。

仕組みをしっかり押さえれば、SNSのトレンド変化は怖くない

増岡 最後に、今回の鼎談(ていだん)の感想と、読者へのメッセージをお願いします。

田岡 今回の議論を通じて改めて大事だなと思ったのは、顧客の現場を見ることです。よく「顧客に会いに行けない」「顧客解像度が上がらない」といった声を聞くのですが、SNSは全員の目の前にあります。UGC(ユーザー生成コンテンツ)はもちろんのこと、投稿した人のファクト、例えばプロフィールや普段どんなことを投稿しているのかなどを、いくらでも見られます。ですから、まずSNSから拾える1次情報をどんどんインストールしていきましょう。誰かが作ったダッシュボードや分析リポートを見たり、会議室で議論したりするだけでは、見えてこないことがあります。

 そして「気になるから調べる」という行動が、マーケターに限らず社員全員に広がるといいなと思っています。特にCEO(最高経営責任者)やCMO(最高マーケティング責任者)といった経営層には、エゴサーチをしてほしいです。そうするとお客さまに対する理解がズレることはありませんし、ズレたとしても、すぐ気付けます。逆に1次情報から遠ざかれば遠ざかるほど、解像度は落ちていきます。

 普段あまりUGCなどに触れていない営業の方が見ても、いろいろ発見があると思います。例えば小売りへ営業に行ったときに、「実は最近こんな投稿が増えています。お客さんはこう思っているのだから、うちの商品のここがいいと思うんですよ」といった会話ができると、価値が伝わりやすくなる。あるいはお客さま相談室の方がUGCを見ることによって、顧客がどういう課題を持っているのかという解像度が上がる。

 そして、開発者が現場を見るのが一番大事です。1次情報から仮説を立てていくのが重要で、その初めの一歩がSNSであり、エゴサーチだと思います。

飯髙 事業やマーケティングに悩んでいる人はもちろん、今うまくいっている人たちも『コミュニティマーケティングは「巨人の肩」に乗れ』を読んでいただきたいと思います。

 SNSは新しいプラットフォームが次々と登場しているし、機能面やアルゴリズムもアップデートされています。表面的には大きく変わってしまっているように見えますが、私から見ると、根本的なところは変わっていません。特に「人は何かを体験して良かったから発話するのであり、それが最初のUGCとなって伝わり、次の購買や発話が促される」という構造は、SNSを使うユーザーが「人」である以上、簡単に変わるものではないと思います。

 一方で、バズを追いかけたり、プラットフォームをハックしたりするやり方は、SNS側の変化に左右されやすいものです。

 増岡さんがこの本で書いているのはSNSの本質的な話で、再現性に乏しい手法の話ではありません。SNSの仕組みやコミュニティの概念が理解できていれば、プラットフォームが新しいものに変わったとしても通用するので、本当に誰が読んでも得るものがあると思いますね。

増岡 SNSは、あくまでユーザーのためのメディアです。だからこそ、ユーザー目線に立って「どんな興味関心やライフスタイルを持つ人なら、このブランドを能動的に話題にしてくれやすいのか」を考えることが重要です。企業目線の一方的なメッセージでは、なかなか届きません。

 その「語ってくれる人たち」がいる場所こそがコミュニティであり、Whoの解像度そのものです。そして本書では、そのコミュニティを「自社にとっての巨人」と表現しています。

 顧客理解の第一歩がエゴサーチであるという点は、まさにおっしゃる通りです。まずは「今、どんな人が話題にしてくれているのか」を知ることから始める。そこから、Who・What・Howの精度が上がっていくのではないでしょうか。

 田岡さん、飯髙さん、どうもありがとうございました。

左から田岡氏、増岡氏、飯髙氏
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(写真/村田和聡)

多くの企業が自社コミュニティを立ち上げたものの活性化せずに終わっています。その理由は「ゼロからコミュニティをつくる」という前提にあります。本書が提案するのは、従来の「ファンを囲い込む」発想とは真逆のアプローチ。熱量をもって活動している既存のコミュニティ――つまり「巨人の肩」に乗り、その中で自然に認知をとり、発話を生む方法です。SNSマーケティング支援企業で多くの実績を積んだ著者が、これまでの知見を体系化した再現性の高い実践ガイドです。

増岡宏紀(著)、日経BP、2420円(税込み)