「SNSでバズらせたい」という相談は今も後を絶たない。しかし、単発のキャンペーンを繰り返すだけでは売り上げにつながりづらい。ホットリンクの増岡宏紀氏は「SNSは無料でできるもの」という認識のまま、担当者任せにしている企業の姿勢に警鐘を鳴らす。そこで今回は、増岡氏にSNSを「投資すべき媒体」として捉え直し、継続的な認知接点を設計することの重要性を聞いた。[日経クロストレンド 2026年2月18日付の記事を転載]

増岡宏紀氏
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増岡 宏紀 氏
ホットリンク コンサルティング営業本部 本部長
2016年にホットリンクへ入社後、SNSコンサルタントやプロモーションプランナーとして、企業のSNS戦略の立案や運用支援、プロモーション設計に携わる。現在は新規顧客の戦略設計から実行支援までを統括。「Japan IT Week」や「宣伝会議」などの業界イベント・セミナーにも登壇し、実務視点に基づくSNSマーケティングの知見を幅広く発信。「日経クロストレンド」「MarkeZine」「ITmedia」などの専門メディアへの寄稿・取材実績も多数あり、SNS活用の専門家として活躍

SNSは「無料でできるもの」という誤解

まず、なぜ企業は今もバズに執着するのでしょうか。

増岡宏紀氏(以下、増岡) 大きく3つの理由があると思います。

 1つ目は、過去の成功体験です。SNSでバズが起きた結果としてメディアに掲載されたり、瞬間的に売り上げが上がったりという経験が何度かあると、それを追いかけてしまう。

 2つ目は、KPI(重要業績評価指標)の問題です。SNS運用担当者の成果指標が「○万インプレッションを超える投稿をどれだけ作れるか」「エンゲージメント率を高める」といった設定になっている企業が多い。それを達成するためにバズる投稿を作らなければならない、という構造になっています。

 3つ目は、バズに頼らない方法を知らないということです。広告を使うという選択肢があったとしても、特に上司層から拒否感を持たれてしまう。これまでSNSでは「面白い投稿を作る」ことが担当者のスキルとされてきたので、広告を使うことが逃げに聞こえてしまうのだと思います。

企業は認知施策としてテレビCM、デジタル広告、SNSなど様々な手段を持っています。しかしSNSは「無料でできるもの」「担当者に任せておけばいい」と、軽い扱いを受けている印象があります。

増岡 ひとくくりにはできませんが、そういう認識はまだまだ多いと思います。特にオフラインの場で色々な人と話していると顕著に分かります。

 SNSをマーケティング戦略の中核に据えて本気で取り組んでいる企業の場合は理解も深まっているのですが、そうではない企業も多い。「担当者に任せているが、正直どうするのがいいか分からない」とおっしゃる方も多い印象です。

 本気で取り組んでいる企業とそうでない企業の差は、年々大きくなっていると感じます。

そういう方々に対して、どのように説明されるのですか。

増岡 まず、なかなか責任者からは見えない、担当者の方々の苦労をお伝えすることが多いですね。アルゴリズムの変化でオーガニック運用の効果が低下している中で、自社投稿だけで成果を出すのは非常に難しい状況になっていると。

 その上で、SNSのメディア環境を正しく理解し、事業成長につながる施策に取り組む必要があるとお伝えしています。今は広告を使わなければ成果を出すのが難しい状況なので、自社投稿だけで頑張るよう担当者に求めるのは酷ですよね、と。

つまり、SNSの位置付けとしては、担当者任せにするのではなく、会社として戦略を持って取り組むべきだということですね。

増岡 その通りです。そうしないと成果にもつながりません。

従来のマーケティング予算配分の問題点

SNSが重要だと分かっていても取り組めていない企業は、予算を他に使っているわけですよね。現状どのような予算配分になっていることが多いのでしょうか。

増岡 企業によって異なりますが、デジタルに注力している会社であれば、検索連動広告やディスプレイ広告、動画広告を中心とした獲得広告に使っているケースが多いと思います。

 あとはブランディング・認知拡大を目的とした広告ですね。テレビCMや動画広告で活用するヒーロー動画を制作し、打ち出していくやり方です。いわゆる「3H(ヒーローコンテンツ、ハブコンテンツ、ヘルプコンテンツ)」という考え方に基づいた施策です。

 ヒーローコンテンツは、話題性を持たせて大きな認知を獲得する大規模なコンテンツです。ハブコンテンツは、ファンとの関係を維持するコンテンツ。ヘルプコンテンツは、ユーザーの疑問や悩みに応える検索の受け皿となるコンテンツです。

 ただ、この視点にとらわれ過ぎると問題も生じます。この考え方は、大規模なヒーローコンテンツで一気に認知を獲得し、定期的なハブコンテンツでファンとの関係を維持していくというものです。

 しかし、テレビ離れが起きている今、大規模な発信と定期的なコンテンツだけでは不十分で、より高い頻度で継続的に接点を持つ重要性が増しています。メディアミックスによるフルファネルマーケティングという考え方自体は間違っていません。ただ、そこに「継続的な接点の創出」という視点が含まれていないことが問題だと思います。

増岡宏紀氏
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そもそも今、バズは狙って起こせるのか

あえて伺いますが、そもそも今、バズは狙って起こせるのでしょうか。「それでもバズを起こしたい」という方に向けて、現実的にどれくらいのリソースや覚悟が必要なのか教えてください。

増岡 バズを狙うということは、レコメンドアルゴリズムに乗せるということです。なので狙うことはもちろんできます。タイムラインを常にモニタリングしてミーム(流行)に乗ることや、タイアップなどのリッチコンテンツを作ることなど、お金と人材のリソースをかけることで少しでもその確率を上げることは可能です。

 ただしそれだけやっても、企業が継続的にバズらせ続けるのは非常に難しいです。

トレンドに乗り続けるやり方も問題点はありますよね。

増岡 あります。例えば、ブランド想起を度外視して、ただトレンドに乗ることだけを優先すれば、バズは出せるかもしれません。しかし、企業に合ったちょうどいいミームが来ることは本当にまれです。何でもかんでもミームに乗ろうとしても、本当に企業側が伝えたいブランド価値は伝わらない投稿になってしまいます。その投稿がバズったとしても、ただ視界に入っただけ、見られた程度にしかならないことが多いんです。

「継続的な認知接点」という概念の不在

多くの企業は、単発のプロモーションやキャンペーンを繰り返すだけで、「継続的な認知接点」を設計できていません。なぜ企業は継続接点をつくれていないのでしょうか。

増岡 一番大きいのは、その概念自体がないこと、そしてその重要性が理解されていないことだと思います。デジタルに注力している多くの企業では、継続的な接点を生み出す手段としてSNSを位置付けている。

 また、企業によっては、獲得広告に認知の役割も持たせているという会社もあります。獲得広告をずっと流しているので、それで継続的な接点がつくれているという考え方です。

それについては、どう考えますか。

増岡 サービス名を「聞いたことがある」という認知であれば、接点は持てているので、それはいいと思います。ただし、獲得広告なのでコンバージョンにつながるような「宣伝感の強いコンテンツ」になっています。想起のきっかけを様々な切り口で提供しているということとは、全く考え方が異なるのです。

 単純に接点だけを取りたい、「なんか聞いたことある」をつくれればいいのであれば、それでも構いません。でも、ブランド想起や指名検索につながる認知を取りたいのであれば、やり方は違いますよね、という話になります。

継続的な認知接点を設計する3つのポイント

継続的な認知接点を設計する際、獲得広告との違いをどう考えればいいでしょうか。

増岡 獲得広告はROAS(広告の費用対効果)を合わせる必要があるため、基本的にはファネルで言うと「一定の関心を持っている」層をターゲットにします。つまり、ファネルの下部にいる方々にアプローチするイメージです。

 一方、認知施策は、ファネルの上部を拡大して新規の接点を増やしていくアプローチです。つまり、既に認知されている層への訴求と、まだ知らない層への訴求は異なるものである必要があります。

 私たちが提唱するコミュニティマーケティングでは、これまでリーチできていなかった新規コミュニティにアプローチしていきます。その際、獲得広告のような宣伝的なコミュニケーションでは受け入れられません。宣伝感を抑えてコミュニティにお邪魔し、価値あるコンテンツを提供することで、自社ブランドの認知を広げることができるのです。

継続的な認知接点を設計する際のポイントを教えてください。

増岡 継続的な認知接点の設計のポイントは、大きく3つあります。

 1つ目は、WhoとWhatを明確に決めることです。ブランド想起を獲得したいCEPs(カテゴリーエントリーポイント)の設計がかなり重要になります。どういう層に対して(Who)、どういうブランド認知を取りたいか(What)を決めることが最も重要です。

 2つ目は、様々な切り口でそれを伝えることです。ターゲット層に想起・認識してもらうためには、1つのコンテンツでは記憶に残らず、忘れられてしまう。だからこそ、様々な切り口で定期的な情報接点をつくり続けることが重要になります。

 3つ目は、情報を届けるために広告を使うことです。様々な方法で伝えていく際に、オーガニック投稿を頑張っていても実際に届いていなければ意味がありません。特に今は、アルゴリズムの変化によってオーガニックのリーチ量が大幅に低下しています。広告を使うことを「逃げ」と捉える人もいますが、現在のメディア環境においては必要不可欠です。広告を活用することで、ターゲット層に確実に情報を届けることができます。

「様々な切り口で接点をつくり続ける」という話が出ましたが、これについてもう少し詳しく教えてください。

増岡 想起をつくるには、情報の「積層」が重要です。人は1回の接触だけではブランドを記憶できないので、定期的な接点を通じて様々な角度から情報が積み上げられることで、初めてブランドが想起されるようになります。

 そこで重要になるのがUGC(ユーザー生成コンテンツ)です。UGCの最大の特徴は、多くの人が様々な場所で様々な切り口で語っていることです。企業が自ら作り出すよりも、はるかに多様で豊富な情報の積層が自然と生まれます。この情報の積層が、継続的なブランド想起につながるのです。

増岡宏紀氏
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認知施策の効果を正しく測る指標

認知施策の効果を測る際、誤った測定方法では認知接点の価値を見落としてしまいます。認知施策の効果を正しく測るには、どのような指標を見るべきでしょうか。

増岡 指名検索です。指名検索が増えるということは、ブランドが想起されているという証拠なので、認知施策の効果を測る重要な指標です。

 施策単位でどれが指名検索に影響したか分からない企業、例えば多くの施策を同時並行で走らせている場合は、ブランドリフト調査やアンケートで、届けたいメッセージが届いているのか、想起につながっているのかを測るのも一つの方法です。

 重要なのは、適切な中間指標を設定し、売り上げとの連動を継続的にモニタリングすることです。ホットリンクが行った調査では、UGCが増えるほど指名検索が増え、指名検索が増えるほど売り上げも伸びるという相関関係がデータで示されています。そのため、指名検索の手前の指標としてUGC数を追うことで、事業成長に寄与する認知施策になるよう取り組んでいます。

AIの影響をどう見るか

最近はAI(人工知能)によるレコメンドが当たり前になっています。SNSマーケティングやUGC活用に注力する企業のスタンスは、AI登場以前・以後で変化がありますか。

増岡 AIによる変化はレコメンドだけではなく、SNS内の情報量の増大にも寄与しています。

 まずレコメンドについてですが、これはAIというよりも媒体の意思が影響しています。AIによって精度の高いレコメンドが実現できているのは確かですが、それは根本的には媒体側がユーザー体験の向上を重視しているからです。

 このレコメンドアルゴリズムへの対応として重要なのは、「AIに好かれる投稿」を目指すことではありません。届けたいユーザーが何を求めているかを考えることです。

 さらに、ユーザー視点に立ったとき、企業の発信は相対的に届きづらくなります。なぜならば、個人の発信の方が暇つぶしでSNSを見ているユーザーには面白く、受け入れられやすいからです。

 この点にさらに追い打ちをかけているのが、2点目の「AIによる情報爆発」です。AIによって誰もが簡単にコンテンツを作れるようになり、個人の発信が爆発的に増えています。企業は個人の発信者と同じ土俵で戦わなければならない上に、競合となる個人の発信が急増しているという二重の困難に直面しています。

 AIによって競争環境が激化したと捉え、企業ならではの戦い方を選択する必要があります。

「変化に適応できているか」という視点を持つ

最後に、マーケティング責任者や経営層に向けて「今すぐ見直すべきこと」を教えてください。

増岡 既に積極的にSNSに取り組まれている企業は、ゲームチェンジが起きていることを認識し、戦い方を変えることが求められていると思います。

 以前はオーガニック運用だけで一定の成果を出せていても、今はその成果が縮小しているという話は、SNS界隈(かいわい)でよく聞かれます。私は営業もしていますが、ほとんどの企業がこの問題に直面しています。

 この問題に対して「投稿が面白くないからだ」「担当者に問題があるからだ」としてしまうのではなく、「変化に適応できていないからだ」「正しい戦略の上に立てていないからだ」と、ぜひ一度立ち返ってみていただきたいです。

つまり、SNSを「投資すべき媒体」として捉え直すということですね。

増岡 その通りです。SNSは「無料で認知を獲得できる媒体」ではなく、「投資すべき媒体」へと認識を変える必要があります。

 UGCの動きと指名検索の動きの関係を継続的にモニタリングし、併せて指名検索の伸びが売り上げにどうつながっているかも見ていく。商材や消費者行動の特徴によって数字の出方は変わるので、バズのような瞬間風速で判断せず、中長期で成果が積み上がる設計になっているかを基準に投資判断をする。それが、これからのSNSマーケティングに求められる姿勢だと思います。

増岡宏紀氏
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(写真/市村円香)

多くの企業が自社コミュニティを立ち上げたものの活性化せずに終わっています。その理由は「ゼロからコミュニティをつくる」という前提にあります。本書が提案するのは、従来の「ファンを囲い込む」発想とは真逆のアプローチ。熱量をもって活動している既存のコミュニティ――つまり「巨人の肩」に乗り、その中で自然に認知をとり、発話を生む方法です。SNSマーケティング支援企業で多くの実績を積んだ著者が、これまでの知見を体系化した再現性の高い実践ガイドです。

増岡宏紀(著)、日経BP、2420円(税込み)