内容紹介

 自由競争、株主主権――。金科玉条のようにされてきた原理が相次いで見直され、困惑することが多い。だが、日本は本来柔軟な構造を持ち、和魂洋才のようにうまく新しい考えを日本の現状に即して導入運営してきたのではないか。そこでキーワードとなるのが中二階だ。
 本書は、「中二階の原理」という発想で日本の経営、経済、さらには日本社会の、過去、現在、そして未来を考えるもの。二階に全体を動かす基本原理があり、一階にその原理のもとで生きている人々が住んでいる現場がある。そして中二階の位置に二階とは別の原理が挿入されていることが多いのが、日本の社会システムであり、企業組織である。そして中二階の原理は、二階の原理を現場(一階)に貫徹しようとすると現場で生まれるねじれ感覚を、中和するために挿入される。
 中二階の原理という視点で日本の現実を見ることが重要なのは、日本企業の一階(現場)の動きが鈍く、しかし二階の経済や経営の原理はアメリカ型の原理に流されて硬直的に見えてしまう時代状況だからである。自信を失った日本、成長しない日本、投資しない日本企業、低下する世界での日本の地位、とマスコミが騒ぐ時代になってしまった。
 中二階からの見方を忘れかけているために、真の現実が見られなくなっている。そのために、霧の中にいるような状況に多くの人がなっていないか。そしてその霧が人々を萎縮させているのではないか。本書は、日本の組織を機能させてきた正しいメカニズムを認識させるための日本論。

目次

 序章 空間を豊かにする中二階
萎縮する日本に、光を与える光源
歴史の転換点としての二〇二二年
社会空間を歴史的に豊かにしてきたもの
なぜ今、中二階に着目するのか
中二階に支えられる日本

 第1章 日本という国の中二階
日本語表記の二階と中二階
和語を文字に落とす工夫
漢字と和語の間のねじれ感覚
漢字かな交じり表記、三つの効果
和魂漢才、和魂洋才――文明開化の中二階
国の統治システムの二階と中二階
「平和的な権力移動」を可能にした制度
さまざまに変遷した、中二階としての天皇制
明治維新という奇跡
天皇の意図せざる二階への返り咲き
権力移動をいかに正当化するか
権力の正当性の「ねじれ補正」をする天皇制

 第2章 革命と変動を受容する社会構造の中二階
社会革命をしなやかにこなす日本
政府発の二つの社会革命
明治維新後の、廃藩置県と秩禄処分
武士社会全体の危機意識――マクロ共同体の中二階
藩共同体の維持――ミクロ共同体の中二階
第二次世界大戦後の、農地改革
有史以来の「ラディカル」な改革に協力した地主たち
農業関係者の民主化理念――マクロ共同体の中二階
村落共同体の平和――ミクロ共同体の中二階
コロナショックにしなやかに対応した日本人
罰則なしで機能した、自粛のメカニズム
二つの中二階のペア――マクロとミクロの構造
排斥、暴走、過度の従順という負の側面

 第3章 現場の情報と感情へ配慮――経営戦略の中二階
企業と経済を論ずるための「中二階の原理」
経営戦略の転換と経済の論理
身の丈を超える戦略転換という二階
現場のねじれ感覚を中和する、二つの「中二階原理」
神の隠す手の原理
想定外の困難に発現する、想定外の知恵と努力
買収・統合戦略の中二階
経営統合に必要な、「早めの損切り、早めの溶接」
アウトソース戦略の落とし穴
人材育成や風土改革より、戦略転換が先
戦略の学習インパクトと心理インパクト

 第4章 タテ・ヨコともに距離を短く――組織マネジメントの中二階
ヒエラルキーが生み出す、現場でのねじれ感覚
上がえらくなりすぎる、タテ割りがひどくなる
タテの距離感を小さくする中二階――シェアリングの平等性
シェアリングの多様性とタテの距離感
タテの距離感を小さくする意義
ヨコの相互作用のための中二階――場のマネジメント
情報的相互作用から生まれる三つの効果
QCサークルでの、中二階の成功と失敗
しかし、ヒエラルキーあっての中二階
中二階の共通論理と背後の共同体的感覚
「学級」に見る日本の共同体感覚

 第5章 現場のエネルギーを引き出す――企業統治の中二階
企業統治とはなにか――会社は誰のものか
「逃げないカネ」と「逃げるカネ」
企業の主権と株式会社制度の意義
「株主主権だけ」がもたらすねじれ感覚
株式市場が生むねじれ感覚
ステークホルダーという中二階
従業員という中二階
ドイツの従業員中二階
日本の従業員中二階
従業員中二階の制度的工夫
従業員中二階の落とし穴

 第6章 ヒトのネットワークの重視――市場経済システムの中二階
市場原理主義が生むねじれ感覚
企業が関係をもつ三種類の市場
労働市場での中二階――「参加」と「所属」の違い
モノとカネの企業間取引市場での中二階――取引共同体への志向
「組織的市場」がもたらす三つのメリット
国家と市場が個人の経済生活を律する時代?
資本主義と人本主義
人本主義という中二階の意義――人間の顔をした資本主義
カネとヒト、二重がさねの副作用
副作用の克服と経営者の役割
人本主義市場経済の世界的意義

 終章 中二階発想のすすめ
中二階挿入の基本形
中二階の原理による補完のパターン
中二階の現場への影響の論理
警戒すべきは論理の暴走
ポーランドの、地域共同体という中二階
なぜ中二階が日本に多いのか
なぜアメリカでは中二階が少ないのか
中二階発想の四つのポイント
中二階の原理の主張と世界への発信を

あとがき

参考文献