その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は榊巻亮さんの『 世界で一番やさしい考え方の教科書 』です。

【はじめに】

「考え方」は誰も教えてくれない。

──この件、明日までに考えておいて
──もっとよく考えてほしい

 ビジネスの現場で聞く、ごくありふれたセリフだ。誰も疑問に思うことなく、素直に受け止めるだろう。しかし、ふと立ち止まってほしい。

「よく考える」とは一体、何をどうすることなのだろうか?
 どうしたら「考えた」ことになるのだろうか?

 現代のビジネスパーソンは、考えるのが仕事だと言っても過言ではない。にもかかわらず、肝心の「考え方」は誰も教えてくれないのだ。

考える力が仕事の質を上げる

 鈴川葵(すずかわあおい)が活躍する『世界で一番やさしい○○の教科書』シリーズは、本書で3冊目になる。これまでの2冊では、多くの会社でグダグダになっている会議と資料作りをテーマにしてきた。我々がビジネスの現場でしていることを、「基本動作」として徹底的に言語化して解説した。

 会議の基本動作がしっかりできると、滞りなくスムーズに運営されるようになる。そうなると次は運営ではなく、参加者の「発言の質」が気になってくる。発言の質が会議の質に直結するようになるからだ。

 資料作りの基本動作ができると、「伝え方」で悩むことはなくなる。そうなると次は、「何を」伝えるべきかという、より本質的な悩みが出てくる。

 会議や資料作りの基本動作が身に付くと、次第に仕事のボトルネックは「中身」に移っていく。そして、中身の質を上げるには「考える力」が必要不可欠になる。

 考える力がないと、会議の中で何を発言すべきか判断できない。本質を突く発言ができれば会議がグッと進むわけだが、「本質を突く発言」が何なのか、探してみてもどこにも書かれていないし、誰も教えてくれない。自分で生み出すしかないのだ。

 資料も全く同じ。「ここで何を伝えるべきか」なんて、どこにも書かれていない。誰も教えてくれない。自分で考えるしかないのである。

どのように考えたらよいか?

 世の中には、考えるための「ツール」が無数に転がっている。ロジックツリーやMECE(漏れなくダブりなくという概念)、マインドマップなど、思考のフレームワークはコンサルタントのいろはのように取り上げられる。

 ところがコンサルタントである私自身は、この手のツールを使って考えることがほとんどない。考えた結果をロジックツリーの形に整えて説明したり、フレームワークに落として相手が理解しやすいようにしたりはするが、考える作業そのものにはほとんど使っていないのだ。考えるツールではなく、「仕上げのツール」と捉えている。

 本来、「考える」という動作は、誰でも自然にしていることであり、そのときにいちいちツールを持ち出して考えてはいないはずだ。本書で目指したのは、誰も見たことがない全く新しい思考ツールの紹介ではなく、考える力のある人が自然にしている「考え方」を言語化して再現性を高めることである。

 そのため、本書で紹介する内容は既視感があるものが多いかもしれない。知っていることも多いと思う。しかし、感覚で捉えていることを「体系化」「言語化」して捉え直すことには極めて大きな価値がある。なぜなら、再現性が高まって考える力が向上するだけでなく、人に考え方を教えられるようになるからだ。

物語で伝える意味

 とはいえ、「考える力に問題がある」と自覚している人は非常にまれである。大抵の人が「自分は十分に考えられている」と思っている。

 だからこそ、本書はビジネス小説の形式で伝えるのが重要だと考えた。物語に身を投じて、「あなた自身の考え」と「主人公(葵)の考え」を比較してほしい。自分自身を投影しながら読むことで、自身の過不足を自覚できるように工夫したつもりだ。「このシーンを自分だったら、どう考えるか?」。そんなふうに読んでもらいたい。

 内容は地味でも、ビジネスパーソンにとって決定的に重要なことを記したつもりである。あとは試行錯誤しながら自分なりのやり方を見付け、癖づけしてほしい。

 一度きちんと癖がつけば、それは大きな違いになる。考える力は、人にとって最大の武器なのだから。


【目次】

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