この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日はDavid Plotkin(編著)、Metafind コンサルティング株式会社 髙橋章・市堀誠治・江口裕介(監訳)の『 データスチュワードシップ データマネジメント&ガバナンスの実践ガイド 』。「翻訳者序文」をお届けします。
【翻訳者序文】
データスチュワードシップ(Data Stewardship)をテーマにした、日本で初めての書籍をお届けする。スチュワードシップとあえて英語の片仮名表記としたのは、「データ管理」と訳すと、データマネジメント(Data Management)のことだと思われてしまうからだ。どちらも同じものだと捉えている方がいるかもしれないが、そうではない。
「management」の基になった「manage」という動詞は、単なる管理ではなく、人や組織を動かして成果を生むことを指している。どちらかと言えば経営者や管理者の立場から組織を運営することを意味する。つまりデータマネジメントとは、データを資産として効果的に活用しながら、組織目標を達成するための計画づくりや活動を推進することである。
一方で「stewardship」の基になった「steward」という動詞は、資産や環境の長期に渡る保護のための管理であり、マネジメントを効率よく実施できる環境を整備することを指す。またこの環境整備は、経営者本人に代わって資産を保護する責任者が取り組む。近代英国で貴族や資本家に仕えた執事(スチュワード)の役割がまさにそういうものだった。
従ってデータスチュワードシップとは、データオーナー本人に代わって、資産であるデータとして何があるのかを把握し、データを効率よく利用できる状態とし、そのための環境を整え、その状態と環境を長期に維持する活動を指す。
世界的に見ると、データのマネジメントとスチュワードシップが明確に使い分けられ、それぞれの活動が浸透している。一方日本では、これまでデータスチュワードシップへの関心は低く、本来なら複数のデータスチュワードが分担すべき役割を、データ関連職が兼任することが多い。IT寄りのデータアーキテクトやデータエンジニアが、特定の業務領域のデータスチュワードの役割を兼ねることも、多くの企業で見られる。
しかしビッグデータ時代を経てAIの時代に入った今、組織が扱うデータの量は膨大になり、さらに種類と質はあまりにも多様である。データ活用にはビジネスへの直接的な貢献が求められ、ビジネス知識と高いデータ品質が要求されている。こうした状況下で、データの環境整備をデータアーキテクトなどが兼任で対応するのは負荷が大きすぎる。負荷を軽減するための様々なツールやアプリケーションも開発され、導入が進んでいるが、日本ではそうした道具を使いこなす知識と、その知識を持つデータスチュワードがまったく足りていない。
本書には、こうしたニーズに応えるデータスチュワードシップをどのように導入して実践するかが、体系立てて書かれている。原著者のDavid Plotkin氏は40年にわたりデータスチュワードシップを実践してきた第1人者である。彼が現場で実践してきたノウハウが、多くの成果物の例とともに紹介されているので、ぜひ参考にして実践していただきたい。
ただし、Plotkin氏は米国の金融業を中心にキャリアを積んできたため、本書で紹介される役割、体制、ルール、進め方は金融業の特性を反映した精緻なものとなっている。「このやり方を我々の業界でどう取り組むか」と、本書の記述と皆さんの所属する組織の在り方を比較し、工夫していただくとよいだろう。最初からすべてを適用するのではなく、効果的な部分からスモールスタートする手もある。
また先に述べたように、データスチュワードシップではデータを把握するためにデータの仕様、すなわちメタデータの入手と維持が求められる。そのため、現場で実践できる効果的なメタデータマネジメントについても詳しく記述されている。
日本でもデータカタログの導入が盛んになり、メタデータマネジメントが注目を浴びている。ただ、IT主導でツールの導入が優先され、導入したもののどんなメタデータをどうやって誰が管理するのか決められず、結果としてツールの利用も定着しない現実がある。本書では、ITではなくビジネスが主体となり、日常的に使う用語を活用するメタデータマネジメントの重要性が詳述されている。この考え方を活かせば、メタデータの利用者により貢献し、具体的な成果が出せるはずだ。
翻訳にあたっては原文にできる限り、忠実な訳を意識した。現在の状況を踏まえた意訳は控えている。本書の内容は10年、20年経っても有効なものだからである。
訳語の多くは「データマネジメント知識体系ガイド第二版改訂新版」(DMBOK2R)を参考にしている。こちらについては一般社団法人データマネジメント協会日本支部(DAMA Japan Chapter)と、訳者が所属するMetafindコンサルティングが協力して翻訳を進め、本書と同時に発行される。とはいえ全ての訳語を一致させてはいない。原著者が異なると同じ単語でもその意味や用法が異なるからである。
いくつかの重要な言葉は前述の通り、あえて片仮名にしている。「manage」は「マネジメントする」、「steward」は「スチュワードする」と訳した。違和感があるかもしれないが、意味が異なる以上、あえて管理という訳語を避けた。重要用語である「データドメイン」も片仮名にした。
本書が日本におけるデータスチュワードシップの実践の一助となることを心から期待している。
2024年7月
髙橋章 市堀誠治 江口裕介
Metafindコンサルティング株式会社
【目次】








