その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は日本経済新聞社(編)の『 テクノ新世 技術は神を超えるか 』です。
【はじめに】
本書を貫くテーマは「人類とテクノロジーのゆくえ」です。現在の革新的な技術を紹介するだけでなく、それがもたらす真のインパクトについて考え、未来図を描く。展開するのは文明論です。
今までとは次元の違う進化がテクノロジーに起きている。そんな予感を抱いて取材班を結成したのは2023年春でした。前年11月に公開された対話型AI(人工知能)「Chat(チャット)GPT」の衝撃がじわじわ広がっていた頃です。人間よりも情報処理にたけ、人間同様に言語を操るAIが出現すると、何が起きるのか。世界が注目した最初のアクションは、米ハリウッドの脚本家によるストライキでしょう。創造や表現という、機械にはできないとみなされていた知的労働をやすやすと代替され、仕事を奪われる──。脚本家たちが訴えた不安と危機感が、問題を提起しました。すなわち人知を超えるテクノロジーとどう向き合い、どのように使いこなせばよいのか。地上の覇者となって初めての問いに人類は直面したのです。
AIに限らず、最先端の科学技術がもたらすのは、今日の日常的な感覚やモラルで受け入れられるものばかりではありません。2人の父親から誕生する子ども、クローンペット、不老長寿の追求など、とりわけ生命科学の領域で進んでいる研究や実践例は論争を呼んでいます。是非の判断は読者にゆだね、倫理的な問題については哲学者や思想家のインタビューを通じて整理し、補いました。
2人の作家には書き下ろし小説を依頼しました。記者が書けるのは、すでに起きたか起きつつあるファクトだけです。ルポルタージュに未来予想は描けません。作家の想像力を借りてその限界を突破し、きたるべき社会と人々の暮らしを見せたいと考えました。円城塔氏と津村記久子氏という最高の書き手による企画が実現しました。
いずれも日本経済新聞と電子版に掲載した記事をもとに構成しています。連載を続けた約1年の間にも、取材したエピソードはどんどん更新されました。生成AIの性能は飛躍的に向上し、ネットの偽情報はより巧妙になり、気候変動の影響は深刻化し、日本の探査機が月面の着地に成功しました。脳とコンピューターを直接つなぐブレイン・マシン・インターフェース(BMI)のように、ほとんどSFだと思われていた技術も実用に近づきつつあります。
進化のスピードが肌感覚を上回って速いこと、内容がごく一部の専門家にしか理解できないほど高度になったことから、テクノロジーに対する脅威論はかつてなく高まっています。しかし、使いこなすのはあくまで人間です。今後「善きテクノロジー」を巡る議論は、ますます人間性を巡る議論へと接近していくでしょう。
「テクノ新世」はテクノロジーと人新世を掛け合わせた造語です。人新世は人類が地球に刻む新たな年代をさす概念ですが、その先には、ひょっとしたらテクノロジーが地質学上の分類をなす時代が来るかもしれない。そこに広がるのは人間不在の荒野ではなく、真の知性と理性がコントロールする豊かな世界であってほしい。そんな願いもこめました。
人類とテクノロジーがともに拓く未来の年代記「テクノ新世」へようこそ。
日本経済新聞社 ニュース・エディター 白木緑
【目次】






