「日経BOOKプラス」の記事制作の裏側は? 記事の魅力はどんなところにある? 日経BOOKプラスの編集部員6人が座談会を行い、取材時の裏話や推しの記事などを語り合いました。「日経の本ラジオ」で生配信された内容を、再構成してお届けします。第1回は、司会の尾上真也(日経の本ラジオ パーソナリティー)、日経BOOKプラス編集部の常陸佐矢佳編集長、桜井保幸、坂巻正伸、小谷雅俊が登場します。(2022年8月1日に実施)
注目企業で社員に薦めている本を紹介
尾上 今日は「日経BOOKプラス」の裏側と魅力を、編集部のメンバー6人とワイワイガヤガヤ語ります。まずは小谷さん、自己紹介をお願いします。
小谷 日経BOOKプラスの副編集長をやっています。記事の企画を立てたり編集したり、公式ツイッターの中の人もしています。
今日ご紹介したいのは、私が担当する連載「名著を読む」シリーズで、経営学者の楠木建さんが解説されたハロルド・ジェニーンの 『プロフェッショナルマネジャー』 (プレジデント社)の記事です。これはよく売れた本で、非常に強烈なメッセージが多い。例えば、記事のタイトルにした 「大企業の経営に起業家精神はいらない」 のように、一般論の逆張りのようなことをズバリという名言がたくさんある連載になっています。
記事のサムネイル画像は、それぞれの記事の中から名言を1つ抜いているのですが、この記事に使ったのは、「言葉が軽い人は経営者に不適格」。ぜひいろんな人に読んでもらいたいです。
尾上 「言葉が軽い人」って、ちょっと怖いですね。
小谷 経営者が大変なことがよく分かる記事で、自分は経営者になりたくないなと思いました(笑)。
尾上 今年5月から新しい連載も始まっていますね。
小谷 注目企業の方に、自社の部下や後輩に薦めたい本をご紹介いただく 「あの会社の課題図書」 です。記事を1つ取り上げると、コンサルタント会社、ベイン・アンド・カンパニーの回では、 「ベイン 問題の所在を見極め、自分も部下も疲弊しないために」 というタイトルのものを配信しました。
数冊ご紹介いただいたなかですごく印象的だった本が、 『自衛隊メンタル教官が教える 折れないリーダーの仕事』 (日本能率協会マネジメントセンター)です。自衛隊のメンタル教官だった下園壮太さんが書かれた本で、厳しい状況のなかで、リーダーが自分も部下も疲弊しないためにどうすればいいかを解説しています。
この取材をしたのが、ちょうど日経BOOKプラスをローンチする直前で、編集部のメンバーがヘロヘロになっていて、まさに今の状態だなと(笑)。「この本の教えを守らないといけませんね」と、編集長の常陸さんや副編集長の長野さんと話したことを覚えています。
尾上 サイトの立ち上げは大変ですよね。
小谷 ハードワークな印象があるコンサル会社の第一線の人が薦めているというのがポイントで、まずはリーダー自身のコンディションが大事だと説いています。
常陸 当時、この記事の内容が非常に心に響きました。ついつい自分がなんとかこなせばいいと走りがちですが、自分の状態がどれぐらいのレベルなのかを把握することが重要と指摘されていて、目を見開かされた思いがしました。
毎日1本「はじめに」を公開
尾上 続いて坂巻さん、自己紹介をお願いします。
坂巻 日経BOOKプラスの編集委員兼制作担当で、部員が作った記事を読者の皆さんが読みやすい形にして投稿しています。
担当しているコラムの1つに、サイトがオープンしてから毎日公開している 「まいにち『はじめに』」 があります。書籍の「はじめに」と目次を見ることができて、今年7月末で累計78本、9月には100本に到達しそうです。このコラムのいいところは、新刊の「はじめに」と目次をいち早く見られるのはもちろん、既刊の「日経の本」への入り口になっていること。例えば、国際関係や資源に関する既刊本の「はじめに」を、ウクライナ戦争が注目を集めている今だからこそ読んでいただきたい。過去に出た本でも、今読んでほしい本はたくさんあります。
尾上 日経BPが出す本は年間600冊程度あるので、ネタには困りませんね。
坂巻 1日1本なので、どの本をどのタイミングで読んでいただきたいかを考え、公開日を調整しています。
尾上 他に新しい動きはありますか。
坂巻 7月に、「日経BPクラシックス」というシリーズの紹介ページを作りました( 「『日経BPクラシックス』 武器としての古典を新訳で読む」 )。経済学や経営学などの古典を、実践的な解決策を知るための本として、学者や研究者ではなくプロの翻訳家が、読みやすい日本語訳にして刊行。2008年からこれまでに27作出ています。そのラインアップをまとめて紹介しているので、ぜひ一度のぞいてみてください。
もう1つ、エクセルの実践技のコラムも始めました。
尾上 異色な感じですね。
坂巻 日経BOOKプラスで紹介する「日経の本」はビジネス書が多いのですが、エクセルやITスキルの本も実はたくさん出ています。それをぜひ知ってもらいたいと思い、コラムにしてみたら、おかげさまでたくさんの方に読まれています。IT系の雑誌やサイトで実績のある編集者が作った本なので、実践的で分かりやすい。連載名は 「カリスマYouTuberが教えるExcel超時短メソッド」 と 「逆引き!Excel実務ワザ大全」 。いずれもエクセルカラーの緑色のサムネイル画像が目印です。
本当に面白かった鹿島茂さんの取材
尾上 次に桜井さん、お願いします。
桜井 日経BOOKプラスの企画として、著名人や専門家のインタビューがあります。私は普段あまりお目にかからない方に話を聞きたいと思い、鹿島茂さんにインタビューしました。鹿島さんはフランス文学者で、ものすごく本を読んでいる、いわゆる“知の巨人”タイプ。読んで役に立つ本というより、とにかく面白い本を紹介してほしいと思いました。事前にテーマを決めていなかったので、取材当日になって、評伝や伝記を選んでいただくことになり、 「鹿島茂の読みだしたらとまらなくなる傑作自伝・評伝」 となりました。
鹿島さんにお会いした際に、「日本人のものでナンバー1の自伝はなんでしょうか?」と聞くと、「やっぱり高橋是清だよね」。高橋是清は本当に波瀾(はらん)万丈な人で、一時は留学先のアメリカで奴隷のような契約をしてしまうのですが、そこからなんとか抜け出し、日本に帰ってきて政治家になる。大河ドラマの主人公になりそうな人物です。アメリカ人ではベンジャミン・フランクリンを挙げられて、この2冊の話は本当に面白かった。
尾上 記事のタイトルは 「留学先で奴隷契約、ペルー鉱山で大損 波乱万丈を生きた人」 と 「自分の道は自分で切り開け アメリカ人が好む理想の人物」 ですね。
桜井 フランス人の評伝で取り上げたのは、鹿島さんの著書『パリの王様たち ユゴー・デュマ・バルザック 三大文豪大物くらべ』(文春文庫)。記事のタイトルでは 「『金』と『愛』と『名誉欲』 俗物を貫いた大物たち」 ときれいにまとめていますが、取材のときはもっと生々しい金と女性の話がすごくて、そのあたりはややおとなしい表現に変えています。
尾上 鹿島さんの著書では生々しく書かれているのですね。
桜井 昔の文豪はすごかった、今の作家は大したことないな、と感じました。鹿島さんは評伝を多数執筆されていますが、他の研究者が取り上げないような俗っぽい話が大好きなんですよ。スキャンダルの話を始めると止まらなくなって、本当に面白い方です。
尾上 その辺も想像しながら記事を読んでいただくと、面白さが増しますね。
桜井 ロシア人ではスターリンを取り上げました( 「誰も信用しなかった 史上最悪のソ連独裁者スターリンの素顔」 )。スターリンはめちゃくちゃ本を読んでいて知識があり、政敵だったトロツキーの著書まですべて読んでいたのに、世界史上、類を見ない粛清を行った人物です。本をたくさん読むか読まないかと、いい人間になるかならないかは別物だということがよく分かる例でした(笑)。
構成/佐々木恵美