「子どもとスマホについての本」と聞くと「家庭や学校でいかに使用を制限すべきかを指南する本」と思われるかもしれません。しかし『 スマホの中の子どもたち デジタル社会で生き抜くために大人ができること 』(エミリー・ワインスタイン、キャリー・ジェームズ著、豊福晋平訳、日経BP)は違います。著者は子どもたちの声にしっかり耳を傾けながら、デジタルエージェンシー(自ら考え選択し行動する力)を育てようと語りかけます。ここでは、本書に収録されたNTTドコモ モバイル社会研究所の水野一成氏による「解説」を公開。日本独自の調査結果などを交えながら、本書の読みどころを詳解します。

【解説】

NTTドコモ モバイル社会研究所 水野 一成

 本書は、ティーンエイジャー(13~19歳)への大規模調査およびヒアリングを通じ、少年少女とインターネット(主にソーシャルメディア)の関係を探っている。最大の特徴は、親が抱く少年少女のソーシャルメディアに対する思いや考えと、実際の本人たちの想いや考えとの違いに気づかせる点である。また、なぜそのような差が生じるのか、思春期の発展途上にある特徴も解説される。そのため、本書は教育関係者だけでなく、同じ年頃の子を持つ親にも広く読んでほしい一冊である。

 私は、2017年から日本の小中学生の子どもが安心・安全にICT(Information and Communication Technology)を利用するための方策を考える社会調査を毎年行っている。私の調査でも、2017年から2024年の8年間で、その利用実態は大きく変わっている。ここでは、私たちの調査結果をいくつか提示して日本の子どものICT利用の現状をお伝えしつつ、本書の内容を紹介しよう。読者により身近に感じてもらい、考察いただければと思う。なお、ここで記載する私たちの調査結果については、NTTドコモ モバイル社会研究所のホームページ(HP)で公開されているので、興味のある方は確認していただきたい。

日本の小中学生のインターネット利用状況

 まず紹介したいのは、日本の子どもたちが接している情報機器の状況である。表1は2024年(本書で紹介する調査結果は2024年11月実施したものである。対象は全国の小中学生とその親1300組)の調査結果を示し、インターネットに接続し利用している情報機器を明らかにしている。平均して、子どもたちは3.5個の情報機器を利用している。GIGAスクール構想が本格始動した2021年以降、学校から貸与されたタブレットやパソコンの利用率が大きく上昇し、家庭で所有するタブレットやパソコンの利用率も増加した。また、スマートフォン(以下、スマホ)の利用率も年々上昇しており、特に近年では小学校高学年の上昇率が顕著である。スマホについては、子どもに所有させる割合も上昇しており、小学校低学年では18%、高学年では52%、中学生では87%に達している。所有開始年齢も徐々に低年齢化が進み、平均10.3歳となっている。

 小中学生が使用している情報機器は多様であり、初めて使う情報機器として「スマホ」「自宅所有のタブレット・パソコン」「ゲーム機」が多く、これらが合わせて7割を占める。このように、利用している情報機器はさまざまであり、初めて手にする機器も子どもによって異なる。例えば、インターネット上で遭遇する危険に対処する方法に関して、情報リテラシーの醸成を考える際には、スマホだけに焦点を当てることは危険であるといえる。

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SNSの危険とウェルビーイング

 大人(親)の中には「子どものSNS 利用=悪」と決めつける人もいるのではないだろうか。実際、世間を賑わすニュースの中でも、SNSが起因となって犯罪に巻き込まれたという話題をよく耳にする。本書では、表面上の事象のみを捉えて決めつけることが果たして正しいのか、真に懸念すべき点は何かを考察している。その一つとして、犯罪に巻き込まれる懸念やウェルビーイング(Well-being:心身ともに満たされた状態)の低下を心配し、SNSを休止させた結果、逆にウェルビーイングが下がってしまった事例が紹介されている。また、SNSの利用時間が長いことと幸福度が低いことが必ずしも成り立たないという研究結果も提示されている。ただし、過剰な利用が幸福感を低下させることも示唆する研究結果も存在する。重要なポイントは「個々によって異なる感受性」である。

 日本の場合はどうか、中学生の回答を基に分析を行った。ウェルビーイングについては、①友だちとの関係、②学習への満足、③教師との関係、④友だちからの信頼、⑤自己肯定感に関する2問、⑥学校生活の満足度、計7問を用いて調査し、それぞれを得点化した(1点から4点でカウントし、満点は28点)。さらに、それにSNSの1日の利用時間を合わせて分析した。

 図1に示す通り、SNS利用が中程度(過度に長くない)である場合、ウェルビーイングが高くなる傾向が見られた。この結果は、日本においても本書と類似の結果が出たことを示している。ただし、ウェルビーイングに関連する項目はSNS利用だけではなく、その他の要素が影響している可能性があることにも留意が必要である。また、ウェルビーイングの高低には個々差があり、特に「4時間より長い利用」では差が大きく、利用を中止させた場合、ウェルビーイングに大きな影響(高める・下げる両面)を与える可能性があることを付け加えたい。

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親が子どものスマホ利用で心配なこととその背景

 子どもがスマホを利用することに対して、親がどのような心配を抱えているのか、を図2に示す。統計的解析の結果、これらの心配は「健康に関する項目」と「情報に関する項目」に分けられる。健康に関しては、長時間利用やそれに伴う依存が懸念され、情報に関しては、友人とのトラブルや個人情報の流出が上位に挙げられた。いずれも、SNSの利用に関連する項目が多く見られる。

 では、親はなぜこのような不安を抱くのか、その要因はどこにあるのだろうか。親が危険性を把握できないことや、子どもにどのように教えればよいかが分からないこと、さらにはメディアから流れるニュースの影響も考えられる。これらの要因が、親の不安を増幅させている可能性が高い。

 では、実際に心配していたことが現実に起こり、オンライン上でトラブルが発生した際、親は何ができるだろうか。本書では、この点について以下の4つの点を言及している。

① 小さな侮辱に対して強い感情的反応を示すのは、成長段階では自然な現象であることを理解すること。
②子どもの感情を素直に受け止めてあげること。
③ テクノロジー(スマホなど)から距離を置くことは一つの手段だが、その代償も考慮すべきであること。
④すべてが新しい課題であり、親が理解できないと決めつけないこと。

 特に④については、私自身も胸が痛む思いを抱いている。たしかに、世代が異なるために理解できないと決めつけてしまうと、何も進展しない。後述するゲームの例にも通じるように、自らの子ども時代に起きていたことと何が同じで、何が異なるのかを見極めることが重要である。また、大人の世界で起こる事象がどのように子どもの世界でも特徴的に現れているのかを、本書を参考にしながら整理し、子どもたちが直面している課題に少しでも近づく心構えが大切である。

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親と子のルールづくり

 子どもが少しでも安心・安全にスマホを利用するための一つの手段として、スマホを持たせる際には親と子の間でルールを決めることが重要である。私(40代)が小学校の時には、当然スマホは存在しなかったが、ゲーム機はあった。その頃、親と結んだルールは「夜21時までの利用」であった。では、私が今、子どもとルールを話し合う際に、当時と同じでいいのだろうか。

 まず、ゲームの利用方法について考えると、過去と異なるのは「オンラインでつながっている」という点である。同じように時間の利用を制限しても、1人で利用していた時代とは違い、現代ではオンラインでの仲間とゲームをする可能性がある。例えば、ゲーム開始時に「〇〇に終了できるよう、余裕を持って△△までに目途を付けよう」といった具体的なルールをあらかじめ決めておくことが重要である。親が子どもの利用実態を把握することがポイントとなる。

 なお、どのようなルールを設けているかについては、学年別にモバイル社会研究所のHPで紹介されているため、参考にしてほしい。

親のスマホ利用と子のスマホ利用

 本書で触れられているように、子どもは親をよく観察している。親と子の間で設定されるルールの一例として、「食事中にスマホは利用しない」というルールがあり、これが7割以上で設定されている。しかし、親自身が食事中にスマホを利用していないだろうか。親から注意を受けた際、子どもは「パパやママもスマホを触っているよね」と思うこともあるのではないだろうか。

 私たちの調査では、親のスマホ利用時間が長いほど、子どものスマホ利用時間も長くなる傾向が確認された。この結果を踏まえると、子どもがスマホを利用することを考える際、親自身のスマホ利用について見直す機会が重要であると感じる。

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インターネット利用終了時間と子どもの発達

 本書にある通り、「自己コントロールや衝動抑制もまだ発達段階」である子どもは、スマホを使い過ぎてしまう傾向がある。私たちの調査では、図4に示すように、スマホを使い過ぎてしまう自覚がある中学生は9割弱に達しており、インターネットの終了時刻も、小学生では20時35分、中学生になると22時11分に延びており、中学生の1割以上が24時以降まで利用している。このような遅い時間までの利用は、寝不足を引き起こし、さまざまな問題を引き起こす要因となる。

 なぜ遅くまでインターネットを利用しているのかについては、本書でもいくつかの理由が言及されている。その一つが、「友人への素早い返信を求められる」ことである。友人に寄り添おうとするあまり、日常生活にも悪影響が出る可能性がある。元々この年代は友人を大切にする傾向があり、さらに自己調整や衝動抑制の力がまだ発展途上であることを念頭に置かなければならない。このため、親や大人はその特性を理解し、サポートすることが重要である。

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SNSと通じた人とのつながり

 子どもたちはSNSを通して、どのように人とのつながりに変化を感じているのだろうか。図5は、中学生に対し、SNSの利用を通じてどのような変化があったかを尋ねた結果である。

 その中で、「関係が深まった」や「関係が切れにくくなった」といった「人とのつながりが深化した」と実感している中学生が3割以上を占めている。また、「人とのつながりが拡大した」と感じている割合も1割を超える。このように、SNSは中学生の人とのつながりに多方面で影響を与えていることが明らかであり、上記に紹介したウェルビーイングとの関係にもこの影響が現れていることを確認しておきたい。SNSがもたらす人間関係の変化は、子どもたちの社会的なつながりにとって重要な要素となっている。

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最後に

 本書では、「親」と「子」のSNSとの付き合い方において「誤解」が生じていることをいくつかの事例を挙げて説明している。では、どのようなアプローチが有効であるのか。具体的には、以下の3つが提案されている。

決めつけずに質問すること
②批判を避け、共感を優先すること
③単純な戒めに頼らないこと

 最終的には、子ども自身が自分の答えを見つける手助けをすることが、より良いデジタルエージェンシーを育む鍵であると紹介されている。

 子どもは、親に対してまず状況を理解してほしい、そして寄り添って助けてほしいと考える場面がある。このような時に、親がどのように向き合えばよいか、本書を読んだことで、小学生の親として大きな示唆を得ることができた。親と子がどうICT と向き合っていくか、皆さまにもぜひ読んでいただきたい一冊である。

<解説者>水野 一成(みずの・かずなり)
NTTドコモ モバイル社会研究所
2015年より社会科学系研究所である、NTTドコモ モバイル社会研究所に所属。主な研究テーマは、「子どもとICT利活用」「シニアとICT利活用」「防災・減災とICT利活用」。所属学会は、日本教育メディア学会、日本教育工学会、日本行動計量学会、日本社会心理学会、社会情報学会、情報通信学会等。専門社会調査士、防災士でもある。主な書籍は『データで読み解くモバイル利用トレンド2024-2025』(NTT出版)など。

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