春夏秋冬、季節ごとにお届けしております「手前みそ」企画。2026年春も、ぜひお読みいただきたい「日経の本」を全力でご紹介してまいります。推し担当は、「日経の本」の作り手が30人以上も所属する日経BOOKSユニット第1編集部を率いる赤木裕介部長。聞き手は日経BOOKプラスの常陸佐矢佳編集長が務めます。

世界情勢とビジネスのいまを知る
常陸佐矢佳(以下、常陸):3月も今日で最終日ですね。新年度を迎えるいまこそ、次の一歩に備えたいところです。この時期におすすめの「日経の本」をお聞きします。赤木部長、よろしくお願いします。
赤木裕介(以下、赤木):たくさんの新刊の中から今回、最初にご紹介するのは『 世界を解き明かす 地政学 』です。発売1カ月半ですでに5刷と重版を重ねており、非常によく売れています。その背景には、多くの方々が世界情勢の先行きに不安を感じていることがあります。アメリカのベネズエラ侵攻やイランへの攻撃など、年明けから驚くようなニュースが続くいま、日本は大丈夫なのか、というのは誰しも関心のあるところ。どの地域にどんなリスクがあるのか、各国がどういうシステムで動いており、これまでどのような衝突があったのか、といった基本知識を本書を通じて身につけておくと、きっとお役に立つことと思います。
常陸:人気作家・エッセイストの岸田奈美さんによる本書の書評「SNSに怒りが渦巻く今こそ、地政学に学びたい」はぜひ読んでほしいですね。「地政学はある意味、国という生き物へのケアなのだと思います」という岸田さんならではの一文が印象的でした。他にいま、深掘りしておくべきキーワードはありますか。
赤木:スマホやパソコン、自動車まで、いまや半導体がなければ我々の生活は成り立ちません。半導体はすべての産業の基盤となるため、複雑に入り組んだ各国の思惑のもと、激しい競争が繰り広げられています。シリコンバレー、台北、ソウル、北京、そして東京の各地域で、現地にいる記者たちがそのようすを徹底取材したのが『 半導体覇権 国家に翻弄される巨大企業 』です。エヌビディア、TSMC、サムスン電子といった注目企業について、日本では知り得ない内情を解説。課題山積の日本の半導体業界についても、その実態を描きます。巻頭カラー「ビジュアル解説 半導体産業」も入っており、現状がひと目でわかります。
常陸:半導体産業の「いま」がイメージできる一冊ですよね。半導体プロセスエンジニアのずーぼさんの書評「『半導体覇権』半導体はもはや「産業の米」ではなく「国家の戦略」そのもの」 や、本書からの抜粋記事「デニーズの皿洗いから5兆ドル企業のトップへ エヌビディア『創業の地』」もおすすめです。
赤木:就職活動の定番、『日経業界地図』。その「就職活動版」である『 日経ムック 日経業界地図 就職活動版 2026-2027 』が登場しました! 注目業界/企業の情報の宝庫である日経新聞や業界地図の読み方を解説し、業界・企業研究の方法について紹介しています。直木賞受賞作が就活を舞台にした『何者』だった朝井リョウさんや、勅使川原真衣さんのインタビューも掲載。ES(エントリーシート)の書き方や面接のポイントなどもきちんと網羅した、就活の定番書ともいえる一冊です。私も30年前にこの本を読んでおけばよかった、と思いました(笑)。
常陸:私も同じく、悔やまれます(笑)。勢いで大学2年生の姪(めい)っ子に1冊プレゼントしました。歴史ある『日経業界地図』待望の就活版ですが、若手編集チームの企画アイデアもたくさん盛り込まれていると聞きました。JAXA宇宙飛行士・米田あゆさんインタビュー「あなたの挑戦が、誰かの勇気になる」は大人が読んでも励まされます。
日経平均5万円時代の投資の基礎
赤木:小学生のころから株式投資を始め、現在は学生投資連合USICの投資顧問を務める八田潤一郎さんの初の著作が『 私たちはどう投資をするか? 11歳で投資を始めた大学生が見つけた大切な「人生とお金」の考え方 』です。若者代表として内閣官房「資産所得倍増分科会」委員を務めたことでも注目されています。そんな著者が「同世代にも投資の楽しさを伝えたい!」と一念発起して書いたのが本書。マネーというととかく未来への備えという視点から語られがちですが、それだと若者世代には響かない。自分が応援したい会社に投資したり、優待をもらったりするのってこんなに楽しいし、ちゃんと利益もでるよ、という等身大の語り口は、金融のプロとはまた違った投資の醍醐味を伝えてくれます。
常陸:小学生時代から投資に向き合ってきた著者が、「人生」と「お金」をセットで「自分ごと」として語っているのがいいですね。金融教育家の塚本俊太郎さんの書評「投資をする意味と楽しさが分かる本」からも、若い世代が大切にしたい価値観が伝わってきます。
赤木:日経平均株価がバブルの最高値(3万8957円)を34年ぶりに超えたのが、およそ2年前の2024年2月。いまや5万円を超え6万円台に迫る局面もありました。そんな激動の時代にマーケットの最前線で活躍してきた人気著者の最新作が『 株はずっと上がるもの 誰も書けなかった株式投資の真実 』です。人生100年時代のいま、自分で働くのはもちろん、金融資産にも稼いでもらったほうがよい。なぜなら株価は長期的に見れば上がるのだから、ということをわかりやすく解説します。「40年のプロ人生の集大成」と意気込むだけあって、株価が動く仕組みから企業選びのポイントまで、投資に大切なことがひととおり網羅されています。初心者からベテラン投資家まで、今だからこそ読んでおきたい一冊です。
常陸:単なるノウハウではなく、投資の全体像を把握したい人におすすめしたい内容ですよね。相場環境の先行きが読みづらい今だからこそ「原理原則」に立ち返らせてくれます。著者のメッセージが込められた「はじめに」、ぜひご一読いただきたいです。
数字はビジネスパーソンの鉄板スキル
赤木:毎年春になると、決算書の読み方や会計の入門書が書店のビジネス書コーナーに並びます。数字を読む能力は、ビジネスパーソンの必須スキル。そんなニーズに応える新刊をご紹介しましょう。
『 1300社の信用格付けをした私の決算書を読む技術 』は、財務分析のプロとして長年活躍してきた著者が、そのポイントを教えてくれるものです。「マンチェスター・ユナイテッドとアミューズの共通点」「賃上げはどこまで利益を逼迫させるのか」「社名変更からわかる今後の事業展開」など数字の苦手な方でもイメージしやすいテーマで、決算書を読むポイントをわかりやすく解説。キーエンス、セリア、アップル、スターバックスなどの注目企業を、ベテランアナリストならではの見方で分析します。
常陸:財務三表への苦手意識をほぐしながら、実践的な分析のツボを学べますね。気になる方は、「はじめに」をまずは参考にみてしてみるといいかもしれません。
赤木:先ほど『日経業界地図』のご紹介をしましたが、私もかつて業界地図の編集を担当していたことがあります。業界地図には、その業界でトップのグローバル企業がたくさん載っているのですが、さて、そういう企業の売り上げや利益はどこを見ればわかるのか、日本企業とどうやって比べればいいのか、といったことに頭を悩ませていました。『 世界トップ企業の決算書 グローバルブランドの強さに迫る 』は、野村総合研究所でコンサルタントを務めてきた著者が、海外企業をどう見ればいいのかを教えてくれます。LVMH(ルイ・ヴィトン)とエルメス、ネットフリックスとソニー、スターバックスとゼンショーなど、なじみのある企業を比較することで、世界トップの儲(もう)けのしくみがわかる一冊となっています。
常陸:『日経業界地図』は若手編集者がベテランについて学ぶ修業の場というイメージもありますが、赤木部長にも担当時代があったのですね! この本とあわせて目を通すと、国内外の企業のビジネスモデルや収益構造をしっかり把握できそうです。「はじめに」はグラフや図が盛りだくさんでわかりやすい内容なので、決算書に苦手意識のある方もぜひ手に取ってみてください。
テクノロジーの光と影
赤木:2022年11月に米オープンAIの「ChatGPT」が公開されてから3年半。AIは一気に身近な存在となり、私たちの生活や仕事の進め方を変えつつあります。一方で、一部クリエーターからの反発、仕事が奪われるのではないかという不安感、個人情報がこっそり抜かれてしまうなどのマイナス面が次々と噴出しています。「技術によるユートピア」を目指すなら、ちゃんとした社会的ルールづくりが欠かせません。『 AI搾取 日本の規制の抜け穴(日経プレミアシリーズ) 』では、ルールづくりで後れをとる日本の実態に迫ります。創作するとはどういうことか、AIを使っているのか使われているのかなど、改めてテクノロジーとの共存について考えさせられます。
常陸:便利なAIの負の側面も理解しておくことで、使いこなす自由度が一層高まりそうです。「はじめに」の書影タイトルを見ると、「搾取」という言葉にドキッとします。
赤木:2月の衆院選では高市首相のショート動画がバズり、高支持率の一因になったとも言われています。SNSが政治を動かし、プラットフォームが人々の動きに大きな影響を与える。こうした傾向がますます強まるなか、コンテンツの内容をコントロールする「コンテンツ・モデレーション」の考え方が注目を集めています。オンライン上のコンテンツを無制限に垂れ流してはよくない。かといって、規制を強めれば言論統制にもなりかねない。こうした様々なジレンマに向き合うのが『 プラットフォームに正義を託せるか 「コンテンツ・モデレーション」の最前線 』です。情報法の第一人者がいま何が問題とされているのかを読み解き、各国で異なる規制とその背景について解説します。『AI搾取』とあわせて読むと、より多面的な視点が得られます。
常陸: 日本でも、SNS事業者に誹謗中傷などの不適切な投稿への迅速な対応を義務付ける「情報流通プラットフォーム対処法」が2025年4月に施行されましたよね。「はじめに」を読むと、各国が「正解」を求めて試行錯誤する様子が伝わってきます。
新年度、教養が身につくおすすめ本
赤木:20世紀初頭のベトナム・ハノイでネズミが大量発生。困った当局は、「ネズミの尻尾を切って持ってきたら報酬を与える」というおふれを出しました。市民に駆除してもらおうという狙いだったわけですが、逆にネズミが増えてしまった。実はネズミが減ると報酬も減るので、尻尾だけ切って逃がしていた、それどころかあえて繁殖させる者もいた、というのが実態でした。こうした「短期的な成果にすがり、長期的な展望を見失う」過ちはなぜ起きるのか。『 ダーウィンの罠 私たちはなぜ重要な選択を間違い続けるのか? 』は、そうした現象に「ダーウィンの悪魔」という名前をつけ、そのメカニズムに迫ります。ビジネスの現場でもありますよね。短期的業績達成のプレッシャーをかけすぎたがために、グレーなことをやってしまう、なんてことが。強力な罠ではありますが、過去に封じ込めた例もないわけではない、と本書は教えてくれます。多くの示唆に富む一冊です。
常陸:ネズミの尻尾の話、ガバナンスや企業文化を考える上で興味深いですよね。自分自身も、知らず知らずのうちに同じ罠に陥っていないかを考えてしまいました。連載「ダーウィンの罠 私たちはなぜ重要な選択を間違い続けるのか?」では、翻訳家の夏目大さんによる、本書への理解を深める本を紹介した記事も読めます。
赤木:ニュートンやダーウィンといった歴史的偉人が学んだ名門・ケンブリッジ大学。そこで大切にされているのは、知識を重視する勉強ではありません。『 あなたの一生を支える 世界最高峰の学び 』では、ケンブリッジ大学で教鞭を執る日本人が、800年にもおよぶ歴史で培われてきた成長のしくみを解説してくれます。ケンブリッジには、人生そのものを変える「学びの掟」があるそうです。「コミュニケーションを学びの中心に据える」「学びはひとりでやらない」「奇跡はそこかしこに埋まっていることを忘れない」などなど、学びの本質に迫る教えがたくさんあります。最近、記憶力の衰えを隠せない私ですが、本書で書かれている学びを実践して、充実したシニア人生を歩んでいきたいと願っております。
常陸:私も日に日に進む老眼を言い訳にせず、今だからこそできる学び方を探していきたいです! 読書猿さんによる本書の書評「『孤独な学び』からの脱却 ケンブリッジが教える『学びの正体』」は元日に公開してとてもよく読まれました。
さて、赤木部長とお送りしてきました「手前みそ」は今回が最後です。次回からは日経BOOKSユニットの平井修一、宮崎志乃の両編集部長と、長野洋子・日経BOOKプラス編集長のもと、新装「手前みそ」をお届けします。みなさま、今後とも変わらぬご愛読をよろしくお願いします。そして引き続き、良い読書ライフをお楽しみください!


写真=長野洋子 構成=坂巻正伸 (日経BOOKプラス 手前みそ班)











