春夏秋冬、季節ごとにお届けしております「手前みそ」企画。2025年冬も、年末年始にぜひお読みいただきたい「日経の本」を全力でご紹介してまいります。推し担当は、「日経の本」の作り手が30人以上も所属する日経BOOKSユニット第1編集部を率いる赤木裕介部長。聞き手は日経BOOKプラスの常陸佐矢佳編集長が務めます。

常陸佐矢佳(以下、常陸):2025年も残りわずかとなりました。年末年始の静かなひとときに、じっくり読書を楽しみたい方も多いのではないでしょうか。そこで、「日経の本」の中から一年を締めくくるのにふさわしい本を、書籍チーム部長の赤木さんにご紹介いただきます。まずはどの本からお薦めでしょうか。
赤木裕介(以下、赤木):2025年もいろんな出来事がありました。いきなり暗い話題ですいませんが、埼玉県八潮市の交差点で道路が陥没する事故が起こったのは1月のこと。6月には福岡市でも道路が陥没し、日本のインフラの不安定さが改めて露呈しました。『 インフラ崩壊 老朽化する日本を救う「省インフラ」(日経プレミアシリーズ) 』は、この問題に真正面から取り組んだ書籍です。
高度成長期に一気に拡充されたインフラが次々と限界を迎えるなか、補修や建て直しのための財源も少子高齢化の影響で限られてきている。このままでは、2040年には本格的な「崩壊」シナリオが現実のものとなりかねない。これを食い止めるためにどうすればいいのか、自分ごととして考えるきっかけを与えてくれる一冊です。
常陸:この本に関連した日経BOOKプラスの記事「2040年の日本崩壊 インフラ老朽化の放置で起きる最悪のシナリオ」の警告は衝撃的でした。本書はオイルショックをきっかけに日本が「省エネルギー」を前向きに取り入れてきたように、インフラが少なくなっても豊かさを実現する「省インフラ」のカルチャーを提案しています。悪化する財政を悲観するだけではなく、変化に応じて考えていくことが必要ですね。

赤木:そんな厳しい財政状況がありつつ、一方では普通の会社員なのに億を超える資産を持つ「富裕層」が増えている、との調査結果が話題になりました。野村総合研究所によると、保有資産1億円を超える層が、なんと全世帯の2~3%もいるとか。その衝撃の実態を明らかにしたのが『 「いつの間にか富裕層」の正体 普通に働き、豊かに暮らす、新しい富裕層 』です。
とはいえ、別に石油王みたいな派手な使い方をしているのではなく、その生活はあくまで堅実。リスク資産の運用で億を稼いだので「50万円のゴルフセットを買った」「自宅をちょっとお高めの木材でリフォームした」という、ささやかな贅沢(ぜいたく)を楽しむ層が多いとか。私もこの本を読んで、お金持ちの仲間入りをする方法を考えたいと思います。
常陸:企業経営や先祖から引き継いだ土地活用以外の方法で蓄財した「新しい富裕層」、もしかしたら隣の席で仕事をしている同僚かもしれないですよね。インタビューや統計データが豊富に紹介されていて、消費に対する価値観や行動が興味深く読めます。「はじめに」もよく読まれています。

赤木:続いては、もっと大きなお金をめぐる話です。『 国家は破綻する 金融危機の800年 』などが日本でも高い評価を受けたハーバード大学のケネス・ロゴフ教授の最新作が『 ドル覇権が終わるとき インサイダーが見た国際金融「激動の70年」 』です。
第2次世界大戦以降、基軸通貨として驚くべき発展を遂げてきたドルも、10年前の2015年をピークにその影響力を低下させている、と著者は主張します。IMFでチーフエコノミストを務めた通貨のスペシャリストが、円の凋落(ちょうらく)、人民元の台頭、暗号資産やデジタル通貨の登場といった変化を歴史的に位置づけながら、今後ドルの影響がさらに弱まったときに、どのような危機が到来するのかを予測します。
常陸:各国リーダーや中央銀行総裁との交流など「インサイダー」ならではの個人的なエピソードが織り交ぜられていて、「歴史家やジャーナリスト、AIには書けない内容にしたい」という著者のこだわりが随所に感じられ、読者をぐっと引き込む内容になっています。「手前みそですが、社長が薦める『日経の本』と2026年3大予測」でもプッシュしています。

リーダーを目指す人のための本
赤木:来年こそはビジネススキルをアップグレードしたい!と意気込む方にお薦めなのが『 BCG 経営課題解決「20の思考ツール」 成果を最大化する「7つの要素」 』です。ボストン コンサルティング グループの現役コンサルタントが、その思考法を明らかにした本です。
「構造化」「アナロジー」「バックキャスティング」「ストーリー構築」など20のツールを紹介しているのですが、本書の特徴は第2章の「ケーススタディ」にあります。こうしたツールをどう使いこなして、課題解決につなげるのか。簡単な事例に基づいて、どこから難題に取り組めばいいのかを具体的を教えてくれます。コンサルタントの眼の付けどころがとてもよく分かる一冊です。
常陸:今年コンサルタント歴30年を迎えるという著者は、不確実性が高い時代に対応するには、「分散」「柔軟」「進化」がキーワードだと説明しています。著者メッセージからは「コンサルタントの眼」を習得することで、どんな難題でも解決法が見つかるはずという信念が伝わってきます。

赤木:リーダーシップについての本がよく売れています。では、研鑽(けんさん)を積めば良いリーダーになれるかというと、そうとも限らない。なってみるまでその人が向いているかどうかも分からない、というシビアな現実を教えてくれるのが『 あの人はリーダーに向いているか 』です。
スタンフォードの医学部教授で精神科医が書くリーダーの本、という一風変わった特徴を持つ本書。多くの職場では仕事ができる人がリーダーになることが多いが、それよりも不向きな人をリーダーにしないことのほうがよほど重要だ、と教えてくれます。周りを不幸にしないリーダーにはどういう特徴があるのか、そしてなぜSNSなどでは「強さをアピールする」人が人気を博すのか、といったリーダーをめぐる様々な事象を心理学的な観点から読み解いていきます。
常陸:強くて魅力的なカリスマ性のある人に目を奪われがちですが、謙虚さや共感力を持つ人を選ぶべきだという原点を再発見するきっかけを与えてくれる本ですよね。「リーダーの必須条件として、お金では買えない人柄、心理、気質を復活させることが急務だ」という忘れがちなポイントへの指摘が印象的でした。

赤木:カリスマ投資家の藤野英人さんによるベストセラーを文庫化したのが『 投資家みたいに生きろ[増補版](日経ビジネス人文庫) 』です。投資家になるための本ではなく、「投資家の発想を知ることで、考え方をアップデートしよう」という本です。投資家は、常にリスクをとって挑戦し、未来志向でものを見て、資産を増やすための機会を虎視眈々(こしたんたん)とうかがっています。先が見えない時代だからこそ、こうした姿勢がますます重要になってくる、と著者は語ります。
……というと、とてもストイックに思われそうですが、「関西のおばちゃんの『飴ちゃん投資』をマネする」「コンビニパトロールをしよう」などなど、すぐにできそうな習慣もたくさん紹介されています。新しい年に何か始めようという方にぴったりです。
常陸:2019年の単行本出版時の「挑戦し、未来志向で生きる」というメッセージはそのままに、デフレからインフレへの転換や生成AIの普及などの変化を踏まえて、全面的に内容を見直した本書。「はじめに」を読むと、なぜ「投資家の発想」がビジネスパーソンに必要なのか、よく伝わってきます。
』(藤野英人著)。先が見えない時代だからこそ「投資家の発想」で考え方をアップデートし、新たな1年のスタートを](https://cdn-bookplus.nikkei.com/atcl/column/092400420/120100007/06.jpg?__scale=w:600,h:450&_sh=0270740960)
逆に、ちょっと疲れたときに読みたい本
赤木:ここまで“アッパー系”の本をご紹介してきましたが、この1年を走り続けてきて、ちょっと疲れたな、と感じている方も多いことでしょう。「仕事が多すぎて積み残してしまった」「人間関係がギクシャクしている」「これからのことを考えると不安になる」という悩みやストレスは、ほとんどの社会人が抱えているはず。こうした心の負担をやわらげる「認知行動療法」について分かりやすく解説しているのが『 会社でいちいち傷つかない 認知行動療法が教える、心を守り成果を出すための考え方と行動 』です。
自分自身の物事の捉え方や思考のクセを知り、何にストレスを感じるのかを把握し、行動を変える方法を教えてくれます。本書の「はじめに」にある、職場は生活するためのお給料を得る場所と捉えるとラクになります、というのは、本当にその通りだな、と思いました。
常陸:「会社でいちいち傷つかない」というタイトル、絶妙ですよね。新入社員、中堅の皆さんはもちろん、管理職の難しさを実感しているようなベテランの方にもお薦めです。「認知行動療法とは?」と興味を持った方は、著者の解説をぜひご覧ください。

赤木:我々が抱えている悩みのほとんどは、実は悩まなくていいことである。仏教の原点を伝えるテーラワーダ仏教のスマナサーラ長老が、ブッダの教えを分かりやすく語るのが『 つまずかない 生き方のヒント49(日経ビジネス人文庫) 』です。
仕事、人間関係、自分自身、他者との比較、逆境、迷いなど、人生でつまずきそうになる要素について、その受け止め方を教えてくれます。自分の力では変えられないものを知り、自分のできる限界を理解したうえで、今の環境でできることをやる。「心の三毒(欲・怒り・無知)」を観察し、ないものねだりをしない。穏やかな筆致で語りかけてくる長老の教えを読んでいると、心が軽くなってきます。「自分にふりかかってくる様々な問題をおもしろがってしまおう」という境地に、私も至りたいな、と思いました。
常陸:問題をおもしろがってしまおう、という考え方、いいですね! 「ふりかかってくる問題」そのものではなく「受け止め方」に仏教の視点からフォーカスしたユニークな本ですよね。著者メッセージでも、同じややこしい状況でも人によって受け止め方には大きな違いがあって、「心の動き」を理解することが大事だと分かります。

赤木:根回し、忖度(そんたく)、ゴマすり、派閥づくり、印象操作……職場や集団を動かす力学について、経営学者が真面目に分析したのが『 社内政治の科学 経営学の研究成果 』です。
政治的な行動は、会社においてはネガティブなものとして捉えられがちですが、実は世界的にもメジャーな研究テーマ。だれもが思い当たる「あるある」な行動の背景が分かる、画期的な一冊です。「長時間労働で熱意をアピールするのは日本独自の文化」などと思っていたら、西洋でも「誰よりも早く出社してやる気アピール」「忙しくないのに忙しいふりをする」というのは普通にある行動なのだとか。『 ダークサイド・スキル 本当に戦えるリーダーになる7つの裏技 』『 悪いヤツほど出世する 』(いずれも日経ビジネス人文庫)などと並ぶ「裏ビジネススキル本」として、楽しみながら仕事の憂さを晴らしていただければと思います。
常陸:「社内政治」について、本書では「会社というシステムの欠陥ではない」と指摘していて新鮮でした。「健全で活力ある組織づくり」に生かすことに重点が置かれているので、手っ取り早く「狡猾(こうかつ)な政治家」になりたい人には肩すかしかもしれないです(笑)。まず「はじめに」に目を通して、本書のユニークさと面白さに触れてみてください。
年末年始こそ、家族との時間を増やしたい
赤木:日経BOOKプラスの人気連載が『 名門校の本棚 』として一冊の本にまとまりました! 直木賞作家の伊与原新さんによる素敵(すてき)なプロローグ「知の原生林」も加わった、充実の内容です。早速増刷も決まって、売れ行きも好調。まとめて読むと、また違った味わい深さがあります。
常陸:チーフプロデューサーの南浦淳之さんが始めた人気連載「名門校の推薦図書」を元に、若手書籍編集者の石純馨さんが魅力的な本にまとめてくれました。読んでいると大切なものを取り戻すような感覚になり、忙しいビジネスパーソンの皆さんにこそ手に取っていただきたい一冊なんです。そしてこの本を読むと「先生って素晴らしい職業だな」と改めて思います。

赤木:先行きの見えない時代だからこそ、幅広い知識を持つ必要性が高まっています。リベラルアーツとは、迷いの多い時代に「人生を自由自在に生きるための知識・技術」。『 正解のない教室 これから、何を学ぶべきか?(日経ビジネス人文庫) 』では、実際に中高生や社会人など幅広い層を教えてきた経験を持つ著者が、古今東西の偉人の言葉や哲学・思想にまつわるキーワードからリベラルアーツの入り口へと導いてくれます。「人間にしかできないことってなんだろう」「バナナという言葉を使わずにバナナを説明できるか」など、改めて考えると深い問いが満載。中高生でも大人でも面白く読める内容ですので、年末年始の時間のあるときに、親子で一緒に考えてみるのもいいかもしれません。
常陸:「答え」ではなく「考える楽しさ」を与えてくれる本ですよね。著者メッセージも、親子で考えるきっかけになるかもしれません。中学受験の入試問題にも数多く採用された名著です。

赤木:子どもにやさしい言葉をかけて、いつも笑って接したい。でも時間がないからイライラして、つい声を荒らげてしまい、後から落ち込んでしまう……。子育て中の編集者が、自分の悩みに答えてくれる本を出したい、という熱い思いから企画し、生まれたのが『 親子が一生モノの「安心」でつながる タッチケアの魔法 』です。
タッチケアとは、肌に触れることで心身のリラックスを促し、安心感や癒やしを与えるケア方法。子どもをリラックスさせ、悩みや不安を軽減してあげる効能があります。なにより、忙しい平日でも無理なくできる手法ということで、働く子育て世代にぜひ試してほしい内容です。ちなみに、「うちの子は高校生だから手遅れですよね?」と尋ねたところ、「何かできたときのハイタッチでもいいんですよ」とのこと。今度試してみようと思います。
常陸:温かい手を通しての触れ合い、親のほうも心が満たされそうですよね。著者の解説に「触覚は、歳をとっても最後まで残る感覚」とあります。子どもに対してもそうですが、高齢の親との関係にも良い影響があるかもしれないですね。ハイタッチから、お正月にトライしてみます。驚かれないといいのですが(笑)

赤木:最後に、2026年1月から「下請法」に代わって施行される「取適法」についてコンパクトに解説した『 これだけは知っておきたい 取適法 下請法から中小受託取引適正化法でこう変わる 』をご紹介します。地下鉄のサイネージ広告などでご覧になった方も多いと思いますが、「取適法」は多くのビジネスパーソンに関わる法律です。ぜひ、本書でポイントを押さえて、法律違反にならないようにご注意くださいませ。こちらは、1月1日より電子書籍を先行公開し、14日に発売の予定です。
常陸:法律や規則の変更時は何かとトラブルも起きがちですから。新年のスタートでつまずかないように、ぜひ本書を参考にしていただきたいですね。

たくさんご紹介してきましたが、気になる本は見つかりましたか? 寒い日が続きますが、読書を楽しみつつ、どうぞ穏やかな年末年始をお過ごしください。

写真=長野洋子 構成=坂巻正伸 (日経BOOKプラス 手前みそ班)
