春夏秋冬、季節ごとにお届けしております「手前みそ」企画。猛暑が続く2025年夏も、ぜひお読みいただきたい「日経の本」を全力でご紹介してまいります。推し担当は、「日経の本」の作り手が30人以上も所属する日経BOOKSユニット第1編集部を率いる赤木裕介部長。聞き手は日経BOOKプラスの常陸佐矢佳編集長が務めます。

常陸佐矢佳(以下、常陸):今年も夏休みの季節がやってきました。長期休暇のお供にお薦めの「日経の本」を、書籍チーム部長の赤木さんにお聞きします。連日の暑さに負けない熱いご紹介、よろしくお願いします。
赤木裕介(以下、赤木):人気の認知心理学者、今井むつみ先生の最新作が『 人生の大問題と正しく向き合うための認知心理学(日経プレミアシリーズ) 』です。今年春に慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)教授を定年退職されたのですが、その最終講義をベースにまとめたものです。ベストセラー『 「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか? 認知科学が教えるコミュニケーションの本質と解決策 』でも触れられていましたが、人間の認知の仕組みに由来するすれ違いなどを分かりやすく解説してくれます。
認知心理学は「人間を知る」ための学問ですが、人間の思考をそう簡単に解き明かすことはできません。複雑なことを単純化せず、思考のバイアスや価値観の違いを理解する。こうしたことを学べば、不確実性の高い世界に立ち向かうための手がかりがつかめる、という内容です。
…というと堅苦しく感じられるかもしれませんが、この本で取り上げている心理学の実験を見ていると、「人間ってすぐに勘違いするな」「確かに思い当たるところがあって、面白いな」と感じられ、とても楽しく読める本になっています。
常陸:今井先生は30年近く同大学で「認知心理学」の授業を担当され、その集大成とも言える一冊ですね。日経BOOKプラスの連載「人生の大問題と正しく向き合うための認知心理学」では、今井先生が感銘を受けたという、政府・新型コロナウイルス感染症対策分科会元会長・尾身茂さんによる学生のみなさんへのメッセージも読めます。

リーダーになる人のための本
赤木:厳しい生保営業で常にトップの成績を残し、リーダーとしてもトップレベルの営業パーソンを育成してきた早川勝さんの著作が『 覚悟を決めたリーダーに人はついてくる 』です。
何かあるとすぐに他社に移ってしまうという入れ替わりの激しい生保営業において、結果を出し続ける最強チームを率いてきた手法を明かします。今、多くの企業のマネジャーにとっては「いかに優秀な人材に辞められないか」が重要な課題になっています。本書では、リーダーの人間力や育成力を高めることでチームの結束を高めていく方法を教えてくれます。
いわゆる「精神論」にも思えるかもしれませんが、経験に裏打ちされたノウハウがきちんと体系化されており、非常に納得感のあるものです。本書の中に「いつも上機嫌で、チームのメンバーを笑わせるのも重要なマネジャーの任務」とありました。私も頑張って面白いことが言えるようになりたいと思います。
常陸:この連載でも赤木部長の振り切った“顔芸”は外れなしと好評で、マネジャーの使命感を感じます。作家・西沢泰生さんの書評「『悩めるリーダーのための道しるべ』になる一冊」では、著者の「営業の鬼」とは別の顔がのぞけます。「上機嫌でいる」ことこそ、意志の力が必要な気がしてきました。

赤木:働き方改革によって、チームメンバーの労働時間は11%減少し、リーダーの労働時間は17%増えたそうです(マイナビ調べ)。仕事を抱え込んで身動きがとれなくなってしまっている管理職の姿が目に浮かぶようです。
でも、それではチームのパフォーマンスは上がらないですよね。そんな悩みを持つリーダーたちにお薦めなのが、越川慎司さんの『 一流のマネジャー945人をAI分析してわかった できるリーダーの基本 』です。
「残業ゼロ」「リモートワーク」で働きやすさを追求しても、育成のための研修を強制しても、あまりうまくいかない。それよりも「働きがい」を求めて自ら動いてくれる部下を育てることが重要だ、と本書では教えてくれます。「この打ち手はこれくらい効果があった」と具体的なデータを基に解説してくれるので、何をすればいいのかがスムーズに理解できます。私も、まずはこの本に書いてある「20の声かけ」をやってみることにします。
常陸:求められるリーダーの役割の変化がよく分かりますよね。「ついうっかり」をやらかしがちな私は「失敗」に着目したメッセージに引かれました。BOOKプラスの記事「成功体験だけ重ねても成長につながるのは29% 『正しい失敗』の3条件とは」には「うまくいっていないプロジェクトこそ、最高の学びの場」という指摘があって、そういう見方もあるのかとはっとしました。

赤木:次にご紹介するのは、日本最強のリーダーのひとりであり、世界を驚かせ続ける勝負師である孫正義氏の評伝『 勝負師 孫正義の冒険(上)(下) 』です。英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)前編集長のライオネル・バーバー氏による著作で、日本では知られていない孫正義氏の“素顔”に迫ります。
故スティーブ・ジョブズ氏やビル・ゲイツ氏ほかのレジェンドたちとの親交が深く、シリコンバレーのインサイダーとして活躍。ドナルド・トランプ米大統領と共同会見をしたかと思えば、サウジアラビアの皇太子の支援をとりつけ巨額のビジョン・ファンドを設立する。数々の失敗や巨額赤字にもくじけることなく「勝負」を続けるバイタリティーはどこからくるのか。数多くの取材から明らかにしていきます。
孫正義氏に関する書籍はたくさん刊行されていますが、海外の一流ジャーナリストによる分析は興味深く、またその波瀾(はらん)万丈な物語には改めて引き込まれます。孫さんの真似(まね)をするのは常人には難しいですが、読むと自分も何かやろう!と勇気づけてくれる本です。
常陸:孫さんを取り巻く登場人物も豪華で、映画を見るようなワクワクした気持ちになります。「孫正義 トランプ大統領との歴史的会談を実現した人脈」では、初当選後のトランプ大統領との会談を巡る丁々発止の様子が読めます。

夏のボーナスシーズンに読みたい、お金の本
赤木:最近話題の投資信託もいいけれど、やっぱり株式投資の醍醐味は個別株投資!という方も大勢いらっしゃるでしょう。これまでやったことがないけれどちょっと興味があるな、という方にお薦めの投資入門書をご紹介しましょう。
株式投資でお金を増やす方法は大きく分けて2つあります。株主として会社のもうけの分け前を「配当」や「株主優待」として受け取る方法。そして株式を安く買って高く売ることで、その差益を得る方法です。この2つについて、「日経マネー」の記者が分かりやすく解説したのが『 優待株・高配当株投資のきほん(日経文庫) 』『 成長株・バリュー株投資のきほん(日経文庫) 』の2冊です。
外食や買い物の割引券などお得なイメージがある株主優待。最近では「おこめ券」を優待としてくれる銘柄が人気になったりしました。配当とあわせてどうやって魅力的な銘柄を選ぶのか、どこに落とし穴があるのかを『優待株・高配当株投資のきほん』は教えてくれます。
好業績企業の株価が上昇するとは限らない、というちょっと意外な知識から始まるのが『成長株・バリュー株投資のきほん』です。テンバガー(10倍株)など大きなリターンが得られる可能性もありますが、その仕組みをきちんと理解していないとリスクもあります。投資指標の意味から使い方まで、実践的な知識を分かりやすく紹介します。
常陸:どちらもマネー取材歴の長い記者が執筆した本ですね。『優待株・高配当株投資のきほん』では、実際に優待株に投資して実績を積み上げてきた優待バリュー株投資家・みきまるさんのインタビューがお薦めです。『成長株・バリュー株投資のきほん』の「はじめに」では著者の「読者にいい形で情報を届けたい」という思いが伝わってきます。この2冊をベースに投資姿勢を点検してみてもいいかもしれません。

赤木:着実にお金を増やすなら、長期投資が最も確率が高い――世界100万部のベストセラー『 敗者のゲーム[原著第8版] 』の著者が、これまで書きためてきた論文・エッセーをまとめたのが『 賢者の投資思考 チャールズ・エリス 60年の思索の軌跡 』です。
この本には『敗者のゲーム』のベースとなった論考が掲載されているなど、著者がどのように現在の「投資原則」を生み出したのか、その道筋がよく分かります。それは投資やファンドの発展の歴史でもあり、専門家にとっても投資家にとっても価値のある内容となっています。
語り口は難しくはありません。ファンドの成績低下の犯人捜しを「オリエント急行殺人事件」になぞらえるなど、親しみやすいたとえも数多く使われています。投資の勉強をする方なら読んでおきたい名著といえるでしょう。
常陸:この『賢者の投資思考』について、著者は「はじめに」で「投資の世界の変化とともに学んできた私の個人史」と語っています。テクニックではなく哲学を伝えようとする本書は、投資に詳しくない人も学びと発見が得られそうです。

赤木:「長期投資」「資産運用」といっても、いったいいつまで続ければいいのか。退職を控えたシニアからこれからのライフプランを考えたい世代まで、資産寿命を伸ばす方法を教えてくれるのが『 100歳まで残す 資産「使い切り」実践法 60代からの”まさか”に備え、資産寿命を伸ばす知恵 』です。
退職して毎月決まった給料をもらえなくなったら、インフレに耐えられるのだろうか。リーマン・ショックみたいな金融危機がきたら、資産はどうなってしまうのだろう。お金をたくさん残しても仕方がないけれど、どれくらい用意しておけばいいのか不安だ。こんな悩みは、誰もが思い当たるところではないでしょうか。
本書は人生100年時代に資産を「使い切る」ための知恵を授けてくれます。私も退職までには少し間があるのですが、「退職後のお金の問題には、感情が大きく関わってくる」と言われると、はっとさせられます。これからのお金の問題にきちんと向き合うために、読んでおきたい一冊です。
常陸:感情の問題は、本書からの抜粋記事「退職後、『資産が減るのが怖い』という感情とどう向き合うか」でも触れられていますね。「年齢ごとに目標資産額を設定しておくことで不安を減らすことができる」と著者の野尻哲史さんは指摘しています。この物価上昇の局面にも慌てず、冷静に対処するためのヒントが得られそうです。

夏休みに読みたいお薦め教養本
赤木:日ごろは忙しくて本を読むヒマがないけれど、夏休みこそ読書三昧だ!と張り切っていらっしゃるみなさんにお薦めの本をご紹介していきましょう。
ノーベル賞を受賞した物理学者と哲学者、社会心理学者が、次の1000年でも通用する科学的思考法を解説するのが『 THIRD MILLENNIUM THINKING アメリカ最高峰大学の人気講義 1000年古びない思考が身につく 』です。実際にカリフォルニア大学バークレー校、ハーバード大学、シカゴ大学といった超名門大学で行われている人気の講義です。
ノイズとシグナル、フェルミ推定、思考の穴、確証バイアスなど、一度は耳にしたことがある理論について、非常に分かりやすく体系だった説明をしてくれます。最初にご紹介した今井むつみさんの本で興味を持った方は、この本を読むとさらに深い理解を得られること、請け合いです。
生成AIに尋ねればすぐに答えが得られる時代だからこそ、その真贋(しんがん)を判断しながら自分の頭で考えることが重要になる。これまで想像もつかなかった世界を生き延びるために必要な教養だと言えるでしょう。
常陸:科学的に「正しく考える」方法を教えてくれる一冊ですね。連載「アメリカ最高峰大学で学ばれる『1000年古びない思考』の力」の「『ネットニュースは見出しだけ見る』が一番危ない」「成功の鍵は『イヤな奴』 ノーベル賞の天才が明かす科学的思考のコツ」など、ドキッとする指摘が満載です。

赤木:分かりやすい語り口の歴史解説が人気の出口治明さんが、翻訳家・文筆家の上野真弓さんとタッグを組んでイタリア・ローマの長い歴史物語に挑んだのが『 ローマ3000年史 人物と人口推移でたどる「永遠の都の物語」(日経ビジネス人文庫) 』です。
歴史書のジャンルでもローマ史は人気が高く、たくさんの本が刊行されています。本書は歴史的人物の物語と人口の推移を通じて、古代から中世、近現代までの歴史を読み解くという画期的な内容です。
カエサル、アウグストゥスの古代ローマから、ルネサンスを経て現代のムッソリーニまで、14人を主軸としてその生きた時代を描きます。もちろんミケランジェロやラファエッロなど、時代を彩る芸術家といったおなじみの有名人も多数登場します。
都市の盛衰は人口の増減とリンクしているのですが、古代ローマはすでに100万人都市だったそうで、その繁栄ぶりに改めて驚かされました。世界史好きはもちろん、改めて教養を身につけたいと思う方にもお薦めです。
常陸:出口さん待望の新作ですね! ローマ在住の上野さんとの共著からは、ローマへのお二人の愛情が伝わってきます。日経BOOKプラスでは本書の「はじめに」部分が読めます。歴史に造詣が深い出口さんの著書では『 一気読み世界史 』(2022年刊)もお薦めです。「『一気読み世界史』編集者が熱弁」では、担当編集者のメッセージを動画でお届けしています。


赤木:次にご紹介するのも歴史の本です。米国に潜在していた「高学歴エリート層」への不満を煽(あお)ることで、ドナルド・トランプ氏は熱狂的支持を集めました。こうした展開はこれまでの歴史でも見られた光景であり、過去には出自や家系をベースとした上流階級という支配層を倒す原動力となってきました。
自分は取り残されている、搾取されていると感じる人たちが「革命」という手段によってエリート層を排除する。その構造を、米CNNの人気番組で司会を務め、コラムニストとしても活躍するファリード・ザカリア氏が分かりやすく解き明かすのが『 革命の時代 1600年から現在までの進歩と反動(上)(下) 』です。
上巻はイギリス、フランス、オランダという3つの革命と産業革命について、その歴史的な意義を振り返ります。下巻では、グローバル化やテクノロジーほか、現代の革命について語ります。
本書では、毛沢東の文化大革命とトランプ革命の相似についても触れ、世界的なポピュリズムの台頭に危機感を抱いています。排外的な主張が広がりを見せている日本も例外ではありません。そんな今だからこそ、改めて読んでおきたい本です。
常陸:先日参院選もありましたが、社会の大きな転換期にあることを実感している人も多いのではないでしょうか。過去の歴史に学び、次世代に生かしていく意識を忘れないようにしたいですよね。本書の「はじめに」でも著者のメッセージがご覧いただけます。

今回取り上げたリーダー論、お金、歴史の本は、読書時間が取りやすいこの時期にこそチャレンジしたいラインアップでしたね。みなさま、お気に入りの本とともに充実の夏休みをお過ごしください。

写真=長野洋子 構成=坂巻正伸 (日経BOOKプラス 手前みそ班)